『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』平野翔大著(中公新書ラクレ)

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ポストイクメンの男性育児

『ポストイクメンの男性育児』

著者
平野翔大 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784121507914
発売日
2023/04/07
価格
1,034円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』平野翔大著(中公新書ラクレ)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

「三重苦」の父親 支援必要

 父親が育児を担うのは「当たり前」になりつつある。だが何をやっても妻に叱られるなどの悩みを抱える父親が多いのも事実のようだ。本書は産婦人科医で男性の育児支援の社会実装を目指す著者が、父親の子育てを取り巻く現状とあるべき姿を掘り下げ、悩める父親の抱える問題をどう解決するかを考えるものである。

 本書では育児に関わる父親像の変遷について「男性は仕事、女性は育児」という考えに疑いすら持たなかった世代を「父親1・0」、2000年代後半に始まり現在に至る「イクメン」として子育てに積極的に参画し、それ故に様々な問題に悩む世代を「父親2・0」と定義する。そして2・0が抱える問題点を踏まえ、今後は仕事と育児の両立が真に可能となる新しい「ポストイクメン」の姿、すなわち「父親3・0」を実現する社会を目指すことが必要と主張する。

 では何が問題なのか。男性育児については「推進」、すなわち制度づくりや掛け声が先行する中、父親は「知識なし・経験なし・支援なし」の三重苦に苦しんでいる。そのため妊娠期の妻へ夫が適切な支援ができず、育児についての知識も不足し、そして仕事と育児の板挟み等により孤立感や夫婦間の溝などに悩む人も増えている。睡眠不足も相まって、父親の「産後うつ」やネグレクトや虐待、離婚など深刻な事態に至る場合も少なくない。

 「父親3・0」を目指すには、妊娠や育児についての正しい知識の教育、夫婦で協働するための目線合わせ、さらに産後うつの原因ともなる完璧主義は捨てる等の啓発の機会や悩み相談ができる支援体制が必要だ。また企業に対しては、人事評価のあり方や育児時間の確保のための業務の徹底した効率化などの大胆な転換が必要であり、それなしには父親育児当たり前の時代に対応出来ないと再考を促す。育児に悩む夫婦はもちろん、これからの育児のあり方を考える全ての人に読んでほしい一冊。

読売新聞
2023年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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