<東北の本棚>日常や母親の介護詠む
[レビュアー] 河北新報
<真桑瓜種ごと食みて味はへばせつなきまでの空がひろごる>は歌の師、小池光さん(仙台文学館長)の推薦作である。「真桑瓜」はマクワウリ、「食べ終えてふと見上げれば、夏空が広がる。展開が伸び伸びしている」と評した。
著者は1948年、仙台市生まれで、本名・幹子。小池さんとは小学校の同級生だ。卒業から半世紀後に再会、以来仙台文学館で指導を受けている。第1歌集で230首を収めた。
自宅の庭に咲く花々が大好きだ、という。<あぢさゐの青は哀しくいたましく過ぎにしことをかへりみるかな>。1人暮らしで、猫を飼う。<家の中二匹の猫の居てあれば空気やはらかに温もりのあり>。「ペットは心の癒やし。日常の風景を歌に詠む」と言う。
母親を見送ったのは2008年。<母逝きて七たびの夏めぐり来ぬ報告出来る何ものも無し>。優しくて折り目正しい人、「強い母だった」と振り返る。
歌集には、52枚の木版画が添えられている。白い満月、黄色の三日月を木版画で表現した「月」の作品は、<憂きことのおほくさびしむ帰り路月の面の白さをあふぐ>の歌に添えた。冴(さ)え冴(ざ)えとした夜空を見上げ、母親を介護した10年を思った時に作った。歌集の題名は「びゃくげつ」と読み、これに由来する。
今野印刷022(288)6123=2000円。