拾えなかった伏線――『T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか』著者新刊エッセイ 詠坂雄二

レビュー

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T島事件

『T島事件』

著者
詠坂雄二 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911744
発売日
2017/07/18
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

拾えなかった伏線

[レビュアー] 詠坂雄二(作家)

今年は『十角館の殺人』発売三〇周年だそうです。

 どうしてこんなことを書くかというと、拙著『T島事件』が、いくつかの十角館オマージュを含んだ孤島ミステリであるからです。もしもこの時期に発売することが作者の狙いだったのなら美しいのですが、実際は執筆が難航しまくった結果の偶然でした。運命論者が言いそうな台詞(せりふ)も、執筆を遅らせた当人にほざく権利はないでしょう。

 ともあれ久しぶりにミステリらしい作品となりました。何がミステリかという問いには人によってさまざまな答があると思いますが、俺は「伏線とその回収に驚きやなるほど感が伴うもの」くらいに考えています。

 つまり大抵の創作物はミステリですね。

 それを踏まえてなおミステリを謳うからには、伏線と回収の手際をよく見せる必要があるわけで、今回そこを熱心にやったという話です。伏線を数え、拾う順番はこれでいいのか、過不足はないかなど、最後までその調整に追われた印象が強いです。結果綺麗に整ったならそれも苦労話で済みますが、正直な話、伏線をすべて拾うことはできませんでした。いや、初稿をあげた時にはできたつもりだったんですが、のちに拾いそこねた伏線が出てくるのです。それも張ったことを忘れていたならただのミスになるところ、作者が張ってもいない伏線が出てくるのでした。

 本稿頭で説明した暗合もそのひとつです。思うに先行作品のオマージュを試みるとは、作品外にあるものを伏線とするような行為なのでしょう。己の原稿だけを見ていては拾いそこねるのも当然です。最後にひとつ『T島事件』内で拾えなかった伏線をあげ、本稿を終えたいと思います。

『十角館の殺人』で舞台となった島の名は「角島」。

 これは「かくじま」ではなく、「つのじま」と発します。

 よろしくどうぞ。

光文社 小説宝石
2017年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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