真保ワールドの全てがここに 渾身、極上の国際サスペンス

レビュー

4
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暗闇のアリア

『暗闇のアリア』

著者
真保 裕一 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041057001
発売日
2017/07/14
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

真保ワールドの全てがここに 渾身、極上の国際サスペンス

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 ハードボイルド、社会派推理、お仕事小説から国際サスペンスまで、第一線のオールラウンダーとして活躍を続ける真保裕一。本書はそうした諸要素をまさに全部盛りしたノンストップ・サスペンスである。

 もっとも、出だしはちょっと古風。経済産業省の課長・富川光範が縊死し、警察は汚職を苦にした自殺と見たが、週刊誌編集・ライターの妻・真佐子は頑として認めない。夫婦仲は冷え切っていたが、夫は自殺するような男ではなかった、殺されたのだと。

 真佐子は同僚を通じて警視庁総務課の警部補・井岡登志雄に相談するが相手にして貰えず、独力で夫の浮気相手と思しき女を探し出し話を聞き出そうとする。女はしかし、光範は浮気相手ではなく、自分が勤める会社の海外事業について知りたがっていたという。一方、井岡もひょんなことから印刷技術の最新知識を仕入れ、似たような自殺事件の遺書について偽造疑惑を抱くのだが……。

 いなくなった夫の跡を妻が追うといえば、設定は違うけど、ちょっと松本清張の名作『ゼロの焦点』等を髣髴させる。やがて光範が調べていたのが内戦で揺れる中央アフリカの二国に関することであるのがわかってくるあたりはさすが今日的な国際スケールだし、井岡が警察庁刑事企画課統計係という急ごしらえの部署に異動させられ、チームによる特命捜査が始まるあたりも今風だ。物語も、やがて思いもよらないキャラクターが浮かび上がってきて、先の読めない展開になっていく。

 帯に書かれた「相次ぐ自殺の謎」が呈示されるくだりなんてほとんどホラーの乗りで、読者の中には著者がキングやクーンツの世界に挑んだのかと早合点する人がいたとしても不思議じゃない。もちろん本書はあくまでリアルに徹したサスペンスであるが、後半は視点も変化してサプライズの連続。その中心となる影の主人公はシリーズキャラにならぬものか。

新潮社 週刊新潮
2017年8月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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