『ハプスブルク帝国』
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厚さも濃さも『応仁の乱』以上
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
ウィーン、オーストリア、ハンガリー、神聖ローマ帝国、スペイン、イタリア、三十年戦争、第一次世界大戦、マリア・テレジア、マリー・アントワネット、エリザベート、メッテルニヒ、反対咬合、多産系――
ハプスブルクと見聞きして頭に浮かぶのがこの程度というワタシには、岩崎周一の『ハプスブルク帝国』は最初、高い山でした。1000年の歴史を網羅する中身はもちろん、その器だって厚さ2センチ、本文400頁、参考文献一覧24頁、税抜き1000円の大ボリュームだからね。
で、読み始めてみたら山じゃなくて沼。史書の常として、登場人物が多かったり、時間軸がテーマによって行きつ戻りつしたりするから、とっつきやすい読み物では決してない。
が、60頁ほど進んで話が中世から近世に移るあたりで沼は乾いた道に変わり、標高がだんだん上がって視界がどんどん開けてくる。近現代に至ればヨーロッパのみならずニッポンについてまで新しい過去と現在が見えてきて、この本、やっぱり高い山だった。
そういう読中・読後感、何かに似てるなと思って気がついた。主役脇役あわせて300人、メモを取りながら読まなきゃ挫折すると騒がれつつ大いに売れてる呉座勇一の『応仁の乱』(中公新書)の西洋史版だ!
噛んで含める聞き書き新書から先祖返りしたような、顎の疲れる専門家直筆新書、しかも大部な歴史モノ。こういう本のためにある季節が読書の秋ではないかと。