『そっと無理して、生きてみる』
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【聞きたい。】高橋幸枝さん 『そっと無理して、生きてみる』
■100歳から「80歳以下の若い人」へ
「80歳以下の若い人へのメッセージ」という書きぶりがいい。著者は、御年100歳の精神科医。健康維持のコツや、生きる上でのヒントをアドバイスする。
「別に難しいことじゃないのよ。私が普段考えていることや、やっていることを文章としてまとめたものです。日記を書いたり、なるべく階段を使うとかね」
足にけがをした昨年まで診療を続けていた。半世紀以上、患者に寄り添った人生経験があるからこそ、「悲しみに暮れている人にどう接するべきか」などの回答には説得力がある。
二・二六事件(昭和11年)のときは現場近くの海軍省で働いていたといい、「私も歴史上の人物よ」と冗談めかして語る。
医者を志したのは、タイピストとして中国・青島で勤務中、現地で医療に携わっていた牧師との出会いがきっかけ。その後、30代で医師のキャリアを始動、50代で神奈川県に病院を開設。ちなみに絵画を始めたり、お酒をたしなむようになったりしたのは80歳から。
「物事を始めるのに、遅すぎるということはないんですよ」
現在は健康をキープ。数独や、サッカー日本代表の試合に夢中だ。「『年を取ると何もできない』と周りから言われるし、自分でも思い込んでしまいがちだけど、そんなことはありません。意外とやれることは多いし、頭も使えばさびませんから」
本書では、「年を取ったからこそ、苦手なことに挑戦する」ことを勧める。とはいえ、年齢を重ねると身体能力はどうしても落ちてしまう。だから、「以前できたことができなくても落胆しない」とも書く。「ちょっとだけ、無理をすることが大事」と語るバランス感覚に共感できる。
「この年だから、よく『人生のしまい方』を考えています。でも、いつかは老人ホームを建てたいという夢は、今も持っているんですよ」。読むと温かな気持ちになると同時に、こちらの背筋をしゃんと伸ばしてくれる本だ。(小学館・1200円+税)
本間英士
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【プロフィル】高橋幸枝
たかはし・さちえ 大正5年、新潟県生まれ。医療法人社団秦和会理事長。