<東北の本棚>魂の在りか探し求めて
[レビュアー] 河北新報
表題の「夏至南風」とは、沖縄で夏至の頃に吹く強い南風を言う。著者は1950年沖縄県宮古島市生まれ。本名・杉浦喜代子。「かりん」会員。最近の作品から435首を収録した。
夫の転勤で30歳の時、仙台へ。<南へと心揺れつつみちのくに住む半生やひぐらしの鳴く>。東京、大阪にも転勤したが、結局は30年間、仙台に住む。<雪中に火柱あがり火の中のだるま目を剥き注連縄くねる>。大崎八幡宮のどんと祭を詠んだ歌だ。天から雪が舞い、下から火柱が上がり、火に投じただるまが目を剥(む)く。南国生まれで、その光景に畏れを感じた。
転勤で沖縄の那覇市に1年だけ住んだ。<海風が椰子の葉ゆらす朝あけの耳をつんざく軍用機の音>。朝起きると、米軍機が低空飛行、ゴーゴーッとマンション中に地響きのようにこだました。<血と膿と糞尿匂う壕の中に息絶えし人生き延びし人>。島南部の戦跡を訪ねた時に作った。沖縄は何も変わっていない。
仙台に戻り今度は東日本大震災に遭遇。<何もかも押し流しゆく大津波 かりそめの世の真実のこと>。沖縄では、あまりに人がつらい思いをすると魂が肉体から抜け落ちてしまうという。「短歌を作るのは、自らの魂の在りかを探し求めること」と著者は語る。
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