おどろきと喜びにあふれた楽しい「思考の問題集」
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
佐藤雅彦と聞いてピンと来ない人でも、彼が手掛けた「ピタゴラスイッチ」なら知っているだろう。NHKの子ども番組だが、大人にも超人気。この世の秩序やしくみをスマートなおどろきとともに見せてくれる番組である。
人は、軽いおどろきや意外な発見が大好きだ。それは大人も子どもも変わらない。そしてそれらが洗練されたおしゃれなものだったら、よけいに好まれる。佐藤雅彦は、そんな小さな喜びを世の中に供給しつづけている人である。
この本は、写真や図や絵で構成された、楽しい問題集だ。たとえばこんな写真。水の入ったビーカーの底にタマゴが沈んでいて、その隣には食卓塩の小ビンが置かれている。次のページでは、タマゴはビーカーの水に浮いており、食卓塩のほうは中身がずいぶん減っている。それで全部だ。ことさらに「問題です」とは言っていない。キャプションもなし。ただ写真があるだけ。
あ、水に塩をたくさん溶かしたらタマゴが浮いてきたんだ、と気づく。それが「答え」なのだが、ほんの少しの時間で誰でも思いつくようなことだ。気づけばクスッと笑い、それでおしまいである。でも、こんなのをみんな求めているでしょう? もっと目をみはるような「問題」がまだまだ満載ですよ。
いくつか並んだ問題のあとに、かんたんな「解説」のページがある。その繰り返しだ。解説は、長くても数行。読んでも読まなくてもいい。そこがいいのだ。読者それぞれの発見と、「なるほどね」という小さな満足感。それでいいのだ。
巻末にエッセイのページもあり、これもまた、「気づく」ということについての発見に満ちている。それに「しゃれた伝え方」についても。「伝える/分かる」ことをとことん追究してきた著者の、視覚や聴覚や触覚のするどさ。そこに自分を同調させていくのが、とても楽しい。