美術館・博物館は「常設展」こそ宝の山!東京国立博物館など12館の学芸員・研究員が魅力を紹介

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常設展こそ、コレクションの宝の山 12館の「ウチの子のじまん話」

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)


東京国立博物館 表慶館

 美術館や博物館はお好きですか。話題の展示の会期末ともなると人出の多さにひるんでしまうが、それは特別展の場合だけだ。常設展のほうは、それほど混んでいない。いや、ほとんど人がいないことさえある。特別展の半券があれば無料で入場できることが多いのに。

「常設展ならいつでも見られる」という気分もあるし、時間をかけて大規模な特別展を見たあとに回ろうと思っても、集中力が続かないこともある。けれども常設展は、その館のコレクションの披露である。館のなりたちや考え方による個性は、むしろ常設展のほうにあらわれると言ってもいいかもしれない。

 タイトルどおり、この本は12の美術館・博物館の学芸員や研究員にその館の常設展を見せてもらいながら話を聞いた訪問インタビュー集だ。コンセプトは「ウチの子のじまん話」。ヨソのお子さんたちもそれぞれに魅力的ですよね、でも「ウチの子」のよさは格別なんですよ。そんなおしゃべりのような、雰囲気のいい本である。

 トップバッターは東京国立博物館。常設の展示だけでも一度や二度行ったぐらいではとても見きれない量だが、ドラマ『半沢直樹』の撮影に使われた本館大階段をはじめ、展示品以外にも目を奪われるスポットが多い。今回の訪問ではコレクションのごく一部を見ているだけなのに、話題は無尽蔵、という感じがする。

 DIC川村記念美術館では、マーク・ロスコの大きな絵画を7点集めた「ロスコ・ルーム」で、絵を見る環境についてのロスコの考え方や、館が作品を購入した経緯などが明かされた。富山県美術館では、詩人であり美術評論家でもあった瀧口修造がこの館の設立にいかに心を寄せていたかが語られた。こうした話を聞けば、展示を見る目が新しくなる。そして、気に入ったものがあれば、いつでも、何度でも見に行ける。常設展へ行きましょう。

新潮社 週刊新潮
2024年3月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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