ウマが合うとはこういうこと 故・平尾誠二と山中伸弥の交友

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友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」

『友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』

著者
山中 伸弥 [著]/平尾 誠二・惠子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784062208277
発売日
2017/10/04
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ウマが合うとはこういうこと わずか6年、でも深い深い交友

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 神鋼ラグビーの故平尾誠二氏とiPS細胞の山中伸弥氏の間に、かくも深き「友情」があったことは本書に接するまで知らなかった。

 二人は週刊誌の対談で初めて会う。山中氏が大学時代にラグビーをやっていたこともあり意気投合、談論風発。互いの仲間を交えての会食から、やがて家族ぐるみのつきあいに。

 途中、山中氏のノーベル生理学・医学賞の受賞があり、密なる交際は6年、そして平尾氏は山中氏との会食後、自宅にて食道静脈瘤破裂によって突然吐血する。検査の結果、胆管癌と判明するが、平尾氏がそれを告げたのは山中氏だけだった――。

 それからの1年が山中氏と、平尾氏の奥さん惠子氏によって綴られます。そして二人が知り合うきっかけとなった週刊誌の対談(未公開部分を含む)も収められています。山中氏は元来整形外科医で癌は専門外、それでも氏は友人のために奔走、ついに平尾氏は「僕は山中先生を信じるって決めたんや」と言います。

 癌になると、本人も家族も悩み迷うそうです。民間療法を含めた膨大な情報量に飲み込まれそうになるからです。山中氏は、自分が彼と同じ癌になったらどうするかと必死で考え動きます。それが当人と家族の信頼を得、余命3ケ月半を1年持ちこたえさせることにつながるのですが、それでも山中氏は平尾氏をしのぶ感謝の集いにおいて「きみの病気を治すことができなくて、本当にごめんなさい」と挨拶します。

 初めて会ったのに昔からの知己であるような親しみを覚える。それがウマが合うということでしょうが、別れは突然でした。「屈強なラガーマンがなぜ?」との思いは、山中氏、ご家族、ラグビー界にも消えません。本書を手にする読者もその思いに駆られることでしょう。

 何度か目頭を熱くしながら、親友や友情、別れについて考えました。そうです、少し青くさくも懐かしい感情を思い返したのです。

新潮社 週刊新潮
2017年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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