大切なのは「覚える」ことを目指さない姿勢。いまこそ「独学」が重要である理由とは?

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知的戦闘力を高める 独学の技法

『知的戦闘力を高める 独学の技法』

著者
山口 周 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784478103395
発売日
2017/11/17
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

大切なのは「覚える」ことを目指さない姿勢。いまこそ「独学」が重要である理由とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

知的戦闘力を高める 独学の技法』(山口 周著、ダイヤモンド社)の目的は、知的戦闘力を向上させるための「独学の技術」を伝えること。しかし独学をシステムとしてイメージしない限り、その目的は達成できないのだそうです。

「1.戦略」「2.インプット」「3.抽象化・構造化」「4.ストック」

(「はじめに」より)

著者いわく、独学とは、この4つのモジュールからなるシステム。ところが「独学に関する本」の多くは、「独学のシステム」における「インプット」の項目しか扱っていないといいます。しかし、独学の目的を「知的戦闘力の向上」に置くのであれば、独学をシステム全体として捉える考え方が必要だというわけです。

どんなに「インプット」の量が多くても、「抽象化・構造化」できなければ柔軟な知識の運用は困難。あるいは「抽象化・構造化」できたとしても、高度に整理・ストックされたその内容を自在に引き出して使えなければ、やはり「知的戦闘力の向上」は果たせません。インプットされた情報を臨機応変に引き出せなければ、知的戦闘力の「瞬発力」において、大きな問題を抱えることになるわけです。

インプットされた情報のほとんど、感覚的には9割以上は忘却されることになります。この問題に対して「いかに忘却を防ぐか」を考えても仕方がありません。知的戦闘力の向上を図ろうとすれば、むしろ「インプットされた内容の9割は短期間に忘却される」ことを前提にしながら、いかに分脈・状況に応じて適切に、忘れてしまった過去のインプットを引き出して活用できるかがカギなのです。(「はじめに」より)

そして、「いかにインプットするか」という点にばかりフォーカスしても意味がないのは、それが「現在」のあり方とも関係しているから。イノベーションがあらゆる分野で進行し、知識の減価償却が急速に進む世の中においては、固定的な知識を獲得するための独学法はあまり役に立たないということです。

なぜならインプットされた知識の多くは、短い間に「知識としての旬」を過ぎてしまうから。つまり重要なのは、独学を「動的なシステム」として捉え、徹底的に「知的戦闘力を高める」という目的に照らし合わせること。

「覚える」ことを目指さない

独学を動的なシステムとして捉えるということは、「覚えること」を目指さないという結論につながるといいます。多くの人は、「高い知的戦闘力」を「膨大な知識量=知的ストック」と紐づけて考えがち。しかしその一方、(少なくとも現代において)「覚える」ということはインプットした情報を固定的に死蔵(しぞう)させるということでもあるというのです。

つまり、現在のように変化の激しい時代に必要なのは、インプットされた知識の多くが短期間で陳腐化し、効用を失うこと(すなわち「覚えないこと」)を前提にして独学のシステムを組むこと。そしてその際のカギとなるのは、「脳の外部化」。一度インプットした情報を自分なりに抽象化・構造化したうえで、外部のデジタル情報として整理しストックするということです。

つまり、いったん脳にインプットした情報は、エッセンスだけを汲み取る形で丸ごと外部に出してしまうわけです。汲み取ったエッセンスをストックする場所はフリーアクセス可能な外部のデジタルストレージであり、脳のパフォーマンスは、あくまでもインプットされた情報の抽象化・構造化にフォーカスさせます。そうすることで「覚えること」に時間をかけずに、知的戦闘力を向上させることが可能になるわけです。(「はじめに」より)

物理的に本を読み、知識を頭の中に蓄えていた時代とは違い、今日、あらゆる知識はフリーアクセス可能なインターネット上に存在するようになりつつあります。そのような世界においては、「知る」(知識を情報として脳内にストックする)ことの意味合いを再考すべきだという考え方。

いま「独学」が必要な4つの理由

著者は、「独学の技術」がこれほどまでに求められている時代はないと考えているそうです。そしてキーワードは、「知識の不良資産化」「産業蒸発の時代」「人生三毛作」「クロスオーバー人材」。それぞれについて確認してみましょう。

1.「知識の不良資産化」——学校で学んだ知識は急速に時代遅れになる

わかりやすくいえば、学んだ知識が富を生み出す期間がどんどん短くなってきているということ。そのいい例として、著者はビジネススクールで教えているマーケティングを引き合いに出しています。ほんの10年ほど前まで、ビジネススクールで教えられていたのはフィリップ・コトラーを始祖とする古典的なマーケティングのフレームワークでした。市場を分析し、セグメントに分け、ターゲットとなる層に合わせてポジショニングを決め、4Pを確定するというアプローチです。

ところが今日、そういったフレームワークは急速に時代遅れになりつつあるということ。

昔であれば、一度学校で覚えた知識は、プロフェッショナルの知的生産を生涯にわたって支える大きな武器になりました。ところが現代においては、そういった知識の「旬」がどんどん短くなっているわけです。

だとすれば求められるのは、過去に学んだ知識をどんどん焼却しつつ、新たな知識を仕入れていくこと。そのため、「独学の技術」が重要性を増すというわけです。

2. 「産業蒸発の時代」——イノベーションはいまの仕組みを根底から覆す

今日、多くの産業・企業にとって「イノベーション」は最重要課題、しかし、「多くの企業が目標としてイノベーションを掲げると、どういうことが起こるのか」という点についてはあまり語られる機会がないのも事実。その当然の帰結が、多くの領域で発生するであろう「産業の蒸発」という事態だというのです。

いうまでもなく、イノベーションとは、それまでの価値提供の仕組みを根底から覆すような変革のこと。つまり、イノベーション発生以前にビジネスを行なっていた企業が、その領域でのビジネスを根こそぎ奪われ、消滅してしまうような事態が発生するということです。

典型的な例が、アップルによるスマートフォン市場への参入。2007年に初のスマートフォンであるiPhoneというイノベーションを成し遂げると、その数年後にはシェアのほぼ半分をアップルが奪うこととなり、それまで上位にいたシャープや富士通のシェアは大幅に下落。パナソニック、東芝、NECにいたっては携帯電話市場からの撤退を余儀なくされたわけです。

当時の携帯電話端末の市場は、末端価格換算で3〜4兆円。そのような巨大マーケットにおいて、ガラケーからスマートフォンへの急激なシフトが発生した結果、ガラケーという巨大産業がわずか数年で「蒸発」してしまったということです。

イノベーションの実現によって、さまざまな領域で急激な産業構造の変化が起こされる以上、そこに携わる多くの人々は、自分の専門領域やキャリアドメインの変更を余儀なくされます。その際、「独学の技術」を身につけている人とそうでない人との間に大きな差が生まれることはむしろ当然であるわけです。

3.「人生三毛作」——労働期間は長くなるのに企業の「旬の寿命」は短くなる

今日、キャリアを考えるにあたって重要な2つの変化が起きていることに著者は注目しています。まず1つは「現役年齢の延長」。たとえばロンドン大学のリンダ・グラットンは著書『LIFE SHIFT(ライフシフト)』において、寿命が100年になる時代には、現役年齢もそれに相応して長くなり、これまで60歳前後だった引退年齢が70〜80歳になることで、私たちの現役期間が長期化することを指摘しています。

2つ目の変化は、企業や事業の「旬の寿命」が短くなっているということ。しかも重要なのは、純粋な意味での寿命。つまり「倒産していない」ということではなく、活力を維持して社会的な存在感を示している時間がどれくらい継続しているかという点、いわば「旬の寿命」が短くなってきているというのです。

企業の「旬の期間」が短縮化する一方で、私たちの生涯における労働期間が長期化するのだとすると、今後のビジネスパーソンの多くは、仕事人生の中で大きなドメインの変更を体験することになるだろうと著者。

そんなとき、「旬の事業・企業の波頭」をうまく乗り越えられる人と、できない人との間では、「人生の豊かさ」に大きな格差が生まれてしまう。そして、そんな社会においては、「独学の技術」が重要なスキルになることは明らかだというのです。

4.「クロスオーバー人材」——2つの領域を横断・結合できる知識が必要となる

「クロスオーバー人材」とは、「領域を越境する人」のこと。さまざまな専門領域が密接に関わりあうようになってきている現代において、専門性だけを頼りにして蛸壺にこもるような人材だけで構成されたチームでは、イノベーションを推進していくことは不可能。イノベーションは、常に「新しい結合」によって成し遂げられるから、というのがその理由です。

そして、そんな「新しい結合」を成し遂げるためには、それまで異質のものと考えられていた2つの領域を横断し、それをつなげていく人材が必要になるということ。すなわち、それが「クロスオーバー人材」だということです。

いうまでもなく、ここで必要になる「さまざまな領域にわたる広範な知識」は、独学によって身につけるしかありません。なぜなら、現在の高等教育機関のほとんどは、基本的に「専門家に育成」を前提としてカリキュラムを組んでいるから。世の中の仕組みが「領域横断型」の人材を生み出すようになっていないわけです。だからこそ、独学以外に頼るすべはないということ。

こうした根拠に基づき、以後の章では「戦略」「インプット」「抽象化・構造化」「ストック」についてさらに奥深く掘り下げられています。それらを理解して独学のスキルを身につけ、ビジネスに活用してみてはいかがでしょうか?

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2017年12月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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