“コロンボ”スタイルの倒叙ミステリ ロジカルな追及劇

レビュー

10
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皇帝と拳銃と

『皇帝と拳銃と』

著者
倉知淳 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488027780
発売日
2017/11/30
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

これぞ正調・倒叙ミステリー 〈コロンボ〉ファンも見逃すな

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 出だしから犯人視点で犯行が描かれるミステリーを倒叙ものという。フランシス・アイルズ『殺意』、リチャード・ハル『伯母殺人事件』、F・W・クロフツ『クロイドン発12時30分』が世界三大倒叙推理として名高いが、例に挙げるならドラマ&映画でお馴染み『刑事コロンボ』のほうが話が早いかも。

 本書は多彩な本格ミステリーの書

き手として知られる著者が初めてその倒叙ものに挑んだ連作集である。全四篇収録。全篇を通してコロンボばりのシリーズキャラクターが登場するが、この名探偵警官「乙姫警部」がタダモノではない。

 冒頭の「運命の銀輪」はコンビ作家が相棒を撲殺する場面から幕を開けるが、そこでの乙姫の登場シーンは、「痩せて、背の高い男だった。喪服のような黒のスーツに身を包み、ネクタイも黒っぽい。(中略)どことなく葬儀社の社員のように見える」と大人しめ。だがそれは客観描写だからで、彼の姿を目の当たりにした犯人は即「死神だ――」と洩らす。「特殊メイクの映画やイラストなどで見る死神のイメージが、そっくりそのまま具現化している」と。

 見た目だけではない。その声は深く低く、「まるで地獄の底から響いてくるかのようだった」。また音もなく移動し、気が付いたときには傍らにいるといった塩梅に立ち居振る舞いも死神的。そうかと思うと、アイドル系の恋愛映画をまめに見ていたり、思わぬところで博覧強記ぶりを披露したりもする。

 倒叙スタイルといっても、端から犯行のすべてを明かすのではなく、「運命の銀輪」では前半犯行動機が、尊大な大学教授が脅迫者を殺す表題作では犯行方法が伏せられる。謎解きの興を盛り上げる手際はマジシャンさながらというべきか。キャラの魅力(相棒の鈴木刑事は超絶二枚目青年)とロジカルな追及劇で読ませる、まさに「〈刑事コロンボ〉の衣鉢を継ぐ」正調・倒叙ミステリーなのだ。

新潮社 週刊新潮
2017年12月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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