『歴メシ!』
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歴史文献から再現したおいしいレシピを紹介
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
歴史の転換点、とはよくいわれる言葉だ。大きなうねりが訪れたとき、遡ってじっくり背景を詳らかにしていくと、じつに意外な要因が明らかになったりする。
カエサルの時代の祝宴から、ダヴィンチの食卓、マリー・アントワネットの晩餐会のメニューまで、歴史的な文献から再現した「おいしいレシピ」を明快なエッセイと共に紹介する遠藤雅司の『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』。今年7月の発売からわずか1週間で増刷を果たし、現在は堂々の4刷。「“食”と“歴史”は一定の購買者数を見込める鉄板ネタですが、大きな版元でもないのにここまでのヒットは想定外」と書店関係者も目を丸くする。
実は火つけ役となったのは、『Fate/Grand Order』という、スマホ向けの超人気RPGのユーザーだ。このゲームの最大のポイントは、歴史や神話上でおなじみの偉人たちと共に世界を救うという趣旨にある。そこに登場するキャラを愛してやまないユーザーたちが、彼らの「食」にまで興味を向けた結果、本書の存在へと導かれたわけだ。―とはいえ、要因はそれだけではない。ヒットの転換点をめぐるタイムスリップはもう少し続く。
著者の遠藤氏は本書を上梓する前から実際に歴史料理を作って食べるイベントを定期的に開催していた。「そこにいらっしゃっていた方々がそのまま購買層のイメージになると思って、参加のモチベーションなど詳しく聞き込みしてみたんです」(担当編集者)。浮かび上がってきたのは、ほとんどの歴史ファンが小説や漫画、舞台などのフィクションから入るという事実だ。そこで、時代区分ごとに章立てするのではなく、人物にフォーカスする構成に方向転換。これが見事ハマり、くだんのゲームユーザーが反応する結果につながった。
柏書房は元々、大学や図書館に置かれるような専門書を扱ってきた出版社だ。営業回りでも買い手となる大学側のスタッフに直接話を聞きに行くことも多い。「お客さんの姿を実際に確かめて要望を取り入れる、というやり方が染み込んでいるかもしれません」(同前)。