暗殺をテーマに様々な視点で掘り下げる競作集
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
歴史・時代小説界に風穴をあけんとする作家集団「操觚の会」の選抜メンバー七人による競作アンソロジーである。
幕末に起こった様々な暗殺を独自の視点から掘り下げた粒揃いの力作が揃っている。競作といえば講談社の〈決戦!〉シリーズがあり、その二番煎じといわれぬよう、背水の陣で刊行された一巻と見た。
谷津矢車、早見俊、鈴木英治、秋山香乃といった、人気作家、ベテラン作家の作品が並んでいる中、彼らより後発で認知度が低い新鋭の作家の作品に力がこもっているのが、私は嬉しかった。
清河八郎暗殺を佐々木只三郎の内省を通して活写した新美健の「欺きの士道」や、その佐々木只三郎によって桂早之助が、龍馬暗殺の片棒を担がされる経緯をとらえた誉田龍一の「天が遣わせし男」、幕末暗殺史最大のタブーとされる孝明天皇毒殺を、ミステリー仕立てで、多面的に考察した神家正成の「明治の石」等を読むと、若々しい野心がみなぎっていて、“歴史・時代小説界に風穴をあける”というフレーズが嘘ではないことが証明されよう。
一方、ベテラン勢も負けてはいない。
井伊大老暗殺によって別々の道を歩むことになった二人の男の交誼を“竹とんぼ”を小道具に描いた谷津矢車の「竹とんぼの群青」、誤った塙忠宝暗殺にかかわった伊藤博文が、ある既視感にとらわれつつハルビンで暗殺されるまでを描く早見俊の「刺客 伊藤博文」、従来とは違う河上彦斎像を打ち出した鈴木英治の「血腥き風」、油小路の変を軸として明治まで生きのびた斎藤一を描く秋山香乃 「裏切り者」まで、充実極まりない一巻である。