[本の森 医療・介護]『ディア・ペイシェント』南杏子/『カシス川』荻野アンナ

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ディア・ペイシェント

『ディア・ペイシェント』

著者
南 杏子 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344032477
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

カシス川

『カシス川』

著者
荻野 アンナ [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163907345
発売日
2017/10/05
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 医療・介護]『ディア・ペイシェント』南杏子/『カシス川』荻野アンナ

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

デビュー作『サイレント・ブレス』で大きな話題を呼んだ現役医師である南杏子の第2作『ディア・ペイシェント』(幻冬舎)の主役は病院におけるクレイマーたちだ。「患者様」たちの横暴さがどれだけ医療現場を疲弊させているか、想像できる範疇を越えている。

 真野千晶は医療法人社団医新会・佐々井記念病院に勤める三十五歳の常勤内科医でここに勤めて約半年になる。七階建て、ベッド数百五十の中規模民間総合病院が求めるのは、患者の利益が何よりも優先するということ。言葉遣いに気を配り「ウイ・スキー」と口に出して繰り返し笑顔を作るトレーニングが従業員に課せられている。

 外来には人が押し寄せ、患者一人に割ける時間は三分半ほどしかない。だが医師に対して患者は何を言っても要求しても許される権利を持つと確信している。病気が治らなければすべて病院側の責任とされ、訴訟を抱えている医師たちの悩みは深い。

 そんな千晶の前にストーカーとなって付け狙うモンスター・ペイシェントの座間敦司が現れた。私物が盗まれ、盗撮され、ネットに悪口雑言が書きこまれる。彼の目的は何か。恐怖の駆け引きが始まる。ミステリーとしても一級品だ。病院という組織のバックヤードで起こる問題を真っ向から世間に突き付ける問題作である。

 荻野アンナ『カシス川』(文藝春秋)は癌が発覚した自分と、その事実を知って認知症が発症した母との相克を描いていく。

 冒頭でランボーの詩集から「カシス川」を読む著者の姿が描かれる。父を看取り、母を看取り、自分さえも看取りかけたが、かろうじて踏ん張ってここにいる自分。

――誰も知らない カシス川

 異形の谷間を 流転する――

 著者はこの詩を読んで、記憶に風穴を開ける決意をする。誕生から始まり母を看取るまでの7つの記憶。祖母、母、娘と一卵性母子の家系であったという。

 画家でわがまま放題の母から、難産で産んだ自分に謝ってほしいと頼まれたことがある。辛い目に遭わせてごめんね、と頭を下げる娘。

 病気を抱えながら作家の娘はどう対処していけばよいのか母に問う。だが母のショックは大きく認知症を発症する。

 抗がん剤治療をしつつ、母に呼ばれれば飛んでいく。自分の治療と母の介護に明け暮れつつも、小説もコラムも書かなくてはならない。近頃の闘病は病気だけに専念させてはくれないのだ。

 母の要求はエスカレートする。機嫌を損ねないように手配をする娘も必死だ。母と娘の日々は永久に続きそうに思えた。

 そして母は死ぬ。その後に訪れる喪失感はどうしたらいいか。

 現代は親友のような母と娘がたくさんいる。残された娘の胸に残るのは何だろう。身につまされる物語であった。

新潮社 小説新潮
2018年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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