【聞きたい。】普通の人々が奏でる日本の100年  橋本治さん 『草薙の剣』

インタビュー

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草薙の剣

『草薙の剣』

著者
橋本 治 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784104061150
発売日
2018/03/30
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】普通の人々が奏でる日本の100年  橋本治さん 『草薙の剣』

[文] 海老沢類(産経新聞社)


橋本治さん

 「私たちは今、どこにいるんだろう?と。それを書くのは、作家の責任かもしれないと、ふっと思ったんです」。昭和から平成に至る日本の100年を、ごく普通の人々の群像を通して描き出す長編小説だ。

 主人公は10代から60代まで10歳ずつ年の違う6人の男たち。戦後の焼け跡から高度経済成長、オイルショック、バブルの狂騒…。女性の社会進出で就職や結婚・離婚の形も変わる。「巨大な砂浜のようなところに普通の人たちがいっぱいいてそれが時代になる。時代って衣服のようなもの」

 幼少期に苦労した世代は「今太閤」と言われた田中角栄首相の登場に体を震わせて興奮する。でも豊かさを享受してきた子供は冷めている。昭和の歌姫・美空ひばりの死への悲しみも親子で共有されない。普通の人々の心が奏でるのは世代間の継承よりも、むしろ断絶だ。自分たちが時代を作る-という当事者意識の欠如も次第に鮮明になる。

 「みんな自分一人で完結しちゃっているんです。だから人が集まっても『世の中をどうしよう』って方向に行かず、それぞれの愚痴が深くなるだけ。誰かが前向きなことを言うと、足を引っ張られたりするし…」

 平成になると陰惨な事件の記述が増える。少子高齢化も顕著になり、2つの大震災も国を揺るがす。そんな今の荒波にどう立ち向かいますか? と、この小説は静かに問いかける。

 題名は日本神話の「三種の神器」から。神話の中で、日本武尊(やまとたけるのみこと)は一面の野原で敵に炎を放たれた。その際、この剣でなぎ払った草を火打ち石で燃やし敵を迎え撃ったとされる。執筆中、「重要なのは剣よりも(向かい火をおこす)火打ち石だ」と気づいたという。「火打ち石に特別な名前はない。だから見えていないだけ。この小説に出る6人にもそれぞれにそういう何かがあるんじゃない?って思うんです」(新潮社・1700円+税)

 海老沢類

 ◇

【プロフィル】橋本治 はしもと・おさむ 昭和23年、東京生まれ。東京大文学部国文科卒。『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞、『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞。ほかの著書に『九十八歳になった私』など。

産経新聞
2018年6月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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