【聞きたい。】筒井康隆さん『カーテンコール』

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カーテンコール

『カーテンコール』

著者
筒井 康隆 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103145363
発売日
2023/11/01
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】筒井康隆さん『カーテンコール』

[文] 海老沢類(産経新聞社)


筒井康隆さん

■89歳、通奏低音は「死の気配」

89歳になった文壇の巨匠による新刊は25編からなる掌編小説集。帯には「わが最後の作品集になるだろう」とある。「これ以上書けない、ということですね。時々『これいいな』と(アイデアを)思いついても、大抵昔に同じことを書いている。この中には駄作もあるけれど、みんなわりと傑作です」

病床の作者の前に、代表作『時をかける少女』『文学部唯野教授』の主人公や亡きSF界の同志が現れ、耳の痛い言葉を投げかけてくる「プレイバック」。自分を守ってくれた力持ちの女中を追想する「お咲の人生」…。遠い記憶や夢の情景を描く収録作が多く、「死の気配」が通奏低音となっている。「僕は怖がりだから、子供のころから『死』について考えてきた。それで(ドイツの哲学者)ハイデガーなんかも一生懸命読んできた。死が怖いから、そうやって自分で自分をごまかしていたのかもしれない」

長男で画家の伸輔さんが51歳の若さで亡くなった後に発表した哀切な一編「川のほとり」も再録した。三途(さんず)の川が見える夢の中で、語り手の「おれ」は微笑を浮かべる息子に懸命に話しかける。しゃべっている限り、息子は消えないだろう…と。

「僕は伸輔が死んでものすごく悲しかったけれども、それをどうやったら表現できるかといろいろ考えた。作家というのは、こういう話を書いて読者がほろっとして泣いたりするとニヤッと笑うんです。『してやったり』とね」

「コロナ追分」では新型コロナウイルス禍で混乱する世の中を、独特の節を付けてふざけた調子でつづる。不謹慎だ、ふまじめだ、と糾弾してくる世間の良識にあらがうのは、この作家の真骨頂でもある。「昔ベトナム戦争をちゃかしたとき、『世の中には笑っていいことといけないことがある』なんて書かれたけれど、僕はそうは思わない。自分一人がこういうことをやってきたから巨匠になれた、みたいな感じかな」と笑う。

9月に心臓の手術を受けたが、その後の経過は順調なよう。「今もパソコンには向かっています。なんか書かないと」(新潮社・1870円)

(海老沢類)

   ◇

つつい・やすたか

作家。昭和9年、大阪市生まれ。『虚人たち』で泉鏡花文学賞、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、『朝のガスパール』で日本SF大賞。

産経新聞
2023年12月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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