『タイトルはそこにある』
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編集者が出す難題に挑んだミステリ集
[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)
なんともチャレンジングなミステリ作品集。担当編集者が次々に与える難題をクリアする形で書かれたのが、堀内公太郎『タイトルはそこにある』である。演劇を扱い登場人物は四、五人程度という第一話のお題はまだいいとして、三人のワンシチュエーションを要求された第二話では回想、場面変更、一行アキが禁じられ、二人の会話文だけと指定された第三話では地(じ)の文が封印された。第四話では、女性三人の独白リレーで全員を主人公にしなければならず、しかも出番を終えた語り手の再登場は許されない。第五話では、全体の総決算的な枷(かせ)がはめられる。
ミステリ小説としては、場面変更や一行アキ、会話文と地の文といった物語の隙間にこそトリックをしこみやすいのに、それができない。また、小説技巧を制約されれば、エンタメ作品としての盛り上げも難しくなる。手足を縛られ箱に閉じこめられた人物がいかに脱出するかというマジックがあるが、それに近い状態だろう。
意地悪とも思える編集者の難題に作者がどう立ちむかうかが、みどころ。収録作はみな、演劇というテーマが共通している。その多くは男女間トラブルを事件の出発点としているが、いずれもややこしいことになっている。将棋の対局後には、棋士同士が互いの手をふり返る感想戦を行うが、同様に本書には、収録作の執筆過程を記したあとがきがあり、しかもそこに担当編集者が注釈を入れている。むちゃぶりに対し作者がどのようにアクロバットをしてみせたか、読者は感想戦をみるように楽しめる。全五話のなかでも特に「雪月花の女たち」は、足枷を逆手にとって活かす作者の機知が面白い。