クイズの途中で解答できるのはなぜか? クイズプレイヤーの奥深さに迫ったミステリ作品

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

君のクイズ

『君のクイズ』

著者
小川哲 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022518378
発売日
2022/10/07
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

クイズで世界を語るミステリ『君のクイズ』 小川哲

[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)

 クイズ番組に出演した三島玲央は、決勝まで進んだものの敗れる。対戦相手の本庄は、最後の一問を問題文がまだ一文字も読まれる前に、早押しで解答したのだった。やらせか、それとも、不正なしに正答しうる理由があったのか。三島は本庄のこれまでの足跡を調べる一方、番組での記憶をたどり直す。

 小川哲は今年、満洲にある都市が形成され消滅するまでを描いた巨編『地図と拳』を刊行した。長大なストーリーによって戦争に揺れる時代をとらえた力作だった。一方、この『君のクイズ』は、短めの長編である。題材も、多くの人からただの知識競争、単なるゲームと思われているクイズだ。ところが、クイズプレーヤーである三島の推理や考察を追ううちに、読者はこの競技の奥深さだけでなく、あわせ持つ怖さのようなものに触れることになる。

 クイズの問題文には途中で「~ですが」と入るパターンがあり、なにについて答えるべきかが決まる「確定ポイント」がある。ポイントが示されてから解答ボタンを押すのでは遅く、いかに先回りするかが勝負の鍵になる。だが、どこまで先回り可能なのか。本作はミステリとして、この謎を魅力的に書く。

 クイズは世界のすべてを対象とするため、世界が変化すればクイズも変化するのだという。主人公が競技クイズのテクニックについて考えることは、人間が自分のいる世界をどのように知り、生きているかを考えることにつながっていく。クイズを通して世界や人生が描かれるのだ。そのため、「確定ポイント」が示される前に判断しなければならない、賭けざるをえない場面を読むと、人生にも同種の局面はあると思いあたり、緊張に襲われるのだ。

光文社 小説宝石
2022年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク