【聞きたい。】古谷田奈月さん『無限の玄/風下の朱』

インタビュー

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無限の玄/風下の朱

『無限の玄/風下の朱』

著者
古谷田 奈月 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784480804808
発売日
2018/07/12
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】古谷田奈月さん『無限の玄/風下の朱』

[文] 本間英士


古谷田奈月さん

■書かなければ生きられない

 今、最も勢いのある若手作家の一人だろう。5月に「無限の玄(げん)」で三島賞を受賞し、「風下の朱(あか)」が芥川賞候補作になった。前者の登場人物は男性のみ、後者は女性のみ。対になる両作品を1冊の本にまとめた。

 「『無限の玄』は男性だけの話。公平さを欠いているような落ち着きの悪さを感じ、次は女性だけの物語を書こうと思いました」

 「無限の玄」は気性の激しい父親と、息子たちを中心にした男性5人組の旅回りバンドの物語。急死した父が生き返り、息子たちを振り回す様子が描かれる。日常にファンタジー要素が自然と入り交じり、独特の軽妙さと仄暗(ほのぐら)さを醸し出す。

 「風下の朱」に登場するのは、野球部に所属する女子大学生たち。青春小説の爽やかさを漂わせつつ、「魂の健康」をめぐる部員同士の対立や、女性であるがゆえの葛藤も描かれる。自身、ソフトボール経験者でポジションは捕手。「全て自分のこと(経験)で書いたシンプルな作品です」

 幼い頃から本と物語が好きだった。その一方、小学生の時、自分が学校にいる意味が理解できないなど、所属する共同体への違和感を抱え続けた。中学校ではソフトボール部部長も務めたが、集団競技への適性の無さを悟り、部活動を“放棄”。不登校も経験した。

 「私にはチームスポーツへの憧れがあるし、自分にはそういう関係が築けなかったからこそまぶしく見える。この憧れがある以上、私は『共同体』というものを書き続けると思います」

 不登校の時期も図書館に通い本を読みあさった。派遣社員などを経て、本格的に小説を書き始めたのは20代半ば。純文学とエンタメ作品を横断して手掛け、「小説を支える思想は柔軟で、かつ揺るぎがない」(作家の辻原登さん)など今後を期待する声が多い。

 「私にとって書くことは楽しく、正しい行為。書くという作業がなければ、私はここまで生きてこられなかったと思います」(筑摩書房・1400円+税)

 本間英士

   ◇

【プロフィル】古谷田奈月

 こやた・なつき 昭和56年、千葉県生まれ。平成25年に作家デビュー。主な作品に『星の民のクリスマス』『リリース』など。

産経新聞
2018年8月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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