『ドラフトキング 1』
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【漫画漫遊】『ドラフトキング』クロマツテツロウ著
[レビュアー] 本間英士
■スカウト目線の舞台裏
年齢を重ねるごとに、プロ野球のドラフト会議から目が離せなくなっている。一人の人生が他者の手でガラッと変わる瞬間を次々と目の当たりにし、心を強烈に揺さぶられるからだ。至らないわが身の来し方行く末ともつい重ねてしまう。
そんなドラフト会議の舞台裏、注目選手を獲得するため全国各地を巡るスカウトの目線から野球を描いたのが本作。日本の野球界は甲子園とプロ野球だけじゃない。もっと広く、豊穣(ほうじょう)な裾野があることを改めて教えてくれる。
主人公は架空のプロ野球球団「横浜ベイゴールズ」のスカウト・郷原(ごうはら)。性格は傲慢、目当ての選手や所属チームの監督と近づくために〝グレーゾーン〟の手も使う。ただし、数字には表れない選手の真の実力を測る眼力は随一。結果もきっちり出す。
スカウトたちの最大の目的はイチロー(ドラフト4位)のような、最終的にその年のナンバーワン選手といえる「ドラフトキング」を獲得すること。異能のスカウトと我の強い選手、酸いも甘いも味わってきた監督らが、己の欲望と信念を胸にバチバチに勝負する〝バトル漫画〟でもある。
郷原らスカウトが目を付ける選手はさまざま。高校野球の県大会、大学野球、社会人野球…。各地方には独自の野球理論を築き、選手育成に定評のある名伯楽がおり、郷原らとガチンコのやり取りを繰り広げる。「どんないい選手も土台はアマチュア野球なんだよ」。別のスカウトが語るこの言葉が、日本の野球文化の奥深さを雄弁に物語る。
最大の魅力はやはり人間ドラマにある。回り道をした結果花開いた選手もいれば、道半ばで挫折した選手もいる。けがを隠して投げ続ける高校球児や、強豪校を中退した元高校球児が再起していくエピソードは特に読み応え抜群。戦力外通告を受けた選手とスカウトのやり取りも味わい深い。
物語は若手スカウト・神木の目線から進む。選手からの転身組だが、野球における賢さ、判断力の高さを指す「野球脳」はイマイチ。一般人の感覚に近いため、郷原が選手を見る視点の異様さが際立つ。
いかにも実在しそうな〝イヤな大人〟の描き方も絶妙。球界の歪(ゆが)みやカネを巡る不透明な部分も描いており、読者の野球脳をも劇薬のように刺激する。一読した上で、20日のドラフト会議をご覧あれ。既刊12巻。(集英社・各660円など)
本間英士