【漫画漫遊】フィギュアの魅力熱く 『メダリスト』つるまいかだ著

レビュー

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メダリスト(1)

『メダリスト(1)』

著者
つるまいかだ [著]
出版社
講談社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784065207833
発売日
2020/09/23
価格
748円(税込)

書籍情報:openBD

【漫画漫遊】フィギュアの魅力熱く 『メダリスト』つるまいかだ著

[レビュアー] 本間英士

フィギュアスケートの熱血青年コーチと女子小学生選手の2人を軸に、競技の厳しさも素晴らしさも描いた作品。漫画ファンが投票で選ぶ「次にくるマンガ大賞 2022」ではコミックス部門1位を受賞。物語の舞台は氷上だが、今最も熱い漫画の一つである。

他の選手より遅く20歳で競技を始めた司は、26歳の今も氷上への未練を断ち切れない。そんなある日、小学5年のいのりと出会う。いのりは親の反対でスケートを習わせてもらえないが、誰よりもリンクへの執念と渇望を抱える。彼女に才能の光を見いだした司はコーチへの転身を決意する。

いのりの目標は世界一、つまり五輪の金メダリストになること。いわば夢物語なのだが、いのりは練習の度に驚異的な成長を遂げていく。圧倒的に無名の2人が二人三脚で下馬評を覆し、ステージを駆け上がっていく展開が痛快だ。

本作に登場する選手は主に小学生。初心者には分かりづらい競技の見どころが子供の目線を通じて伝わる。氷の上でのジャンプがいかに難しいか。スケーティングの基本を押さえながら美しく見せるにはどうすればいいか。観戦時の注目ポイント…。表情から指先、足先に至るまでの描写も美しい。

破れ去ったライバルたちのエピソードも心を揺さぶる。いのりが活躍すればするほど、表彰台から遠ざかる選手たちがいる。だが、彼女らは転んでもジャンプに失敗しても笑顔で演技を続ける。遊びたい盛りの小学生が積み上げてきた猛練習の日々。本番の1秒1秒を無駄にできないと知っているからだ。セリフの一言一言に深みと、大人にも響く説得力がある。

もう一つ特徴的なのが、司の「ほめ上手(じょうず)」だ。いのりをほめて伸ばして、またほめる。フィギュアスケートの世界は結果が全てで、努力が報われる保証はない。重い金銭的負担などシビアな面も描かれる。その中で、本当は苦労人である司の明るさに登場人物も読者も救われる。昔のスポ根漫画との違いに隔世の感を覚える。

2人は地元・名古屋を主な舞台に快進撃を続けていく。手に汗握る展開はもちろん、過去を乗り越えていく人間ドラマとしても秀逸だ。個人的な話で恐縮だが、電車の中で読んでいたらわれを忘れて作品世界に没入してしまい、目的地の駅を4駅乗り過ごした。既刊6巻。(講談社・各748円など)

本間英士

産経新聞
2022年11月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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