牧水の恋 俵万智著

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牧水の恋

『牧水の恋』

著者
俵 万智 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163908885
発売日
2018/08/29
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

牧水の恋 俵万智著

[レビュアー] 水原紫苑(歌人)

◆結ばれぬ悲しみ 歌となる

 『牧水の恋』というまっすぐな題名が、いかにも恋の歌人俵万智である。現代でも人気の高い、旅と酒の歌人若山牧水の原点にあった、若き日の恋を全力で追求してゆくのだ。

 私は、牧水の代表歌の多くがこの恋から生まれたことに驚いた。

  白鳥(しらとり)は哀(かな)しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

 牧水といえば、やはりこの一首である。教科書にも必ず出ている名歌が、小枝子(さえこ)という恋人と結ばれない悲しみから生まれたとは、想像もつかなかった。初出は「沈黙」という一連にあり、前後の歌は抽象的な「悲しみ」の連発だ。

 「しかし、独りよがりであっても、徹底した人生の何かが貼りついている場合、こういう歌を大量に作るなかで、ふいに天啓のように純度の高い歌が生まれることが、まれにある。二首目の白鳥の歌は、まさにそのようにして生まれた名歌ではないだろうか」

 俵の解説が素晴らしい。歌人として同じような経験を持つ著者ならではの論考である。

 意外とも思われる、牧水と俵の組み合わせだが、本書の第四章「牧水と私」で、初期の俵が牧水の歌から大きな影響を受けていたこともわかる。若山牧水賞を受賞し、さらに牧水の故郷宮崎に移り住むことになって、本格的に研究に取り組んだわけだ。

 最後は泥沼のような恋だったが、牧水は、この小枝子の美しい面影を、生涯心から離さなかった。旅も酒もそれゆえであり、大酒による肝硬変での早世も、源はこの恋だったと知って慄然(りつぜん)とした。

 最期を看取(みと)った牧水の妻、喜志子の思いをとらえる俵の筆は鋭く深い。愛情豊かな妻と子どもたちに恵まれながら、牧水は寂しい人間だったのだ。

  幾山河(いくやまかは)越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日(けふ)も旅ゆく

 寂しさの果てる国はついに無く、恋も終わらなかった。そして歌が残る。

(文芸春秋・1836円)

1962年生まれ。歌人。歌集『サラダ記念日』『プーさんの鼻』など。

◆もう1冊 

正津勉(しょうづべん)著『ザ・ワンダラー 濡草鞋者(ぬれわらじもの) 牧水』(アーツアンドクラフツ)

中日新聞 東京新聞
2018年10月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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