転生したら【新】滝本竜彦だった件

レビュー

6
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ライト・ノベル

『ライト・ノベル』

著者
滝本 竜彦 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041075241
発売日
2018/11/29
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

転生したら【新】滝本竜彦だった件――【書評】『ライト・ノベル』滝本竜彦

[レビュアー] 海猫沢めろん

 二〇〇二年に刊行された『NHKにようこそ!』がマンガ・アニメ化され、世界的ベストセラーとなったあと、仕事や私生活の心労により長期の休筆期間に入った作家、滝本竜彦。

 その彼がついに約一七年ぶりに、完全新作長編を刊行する。

 一七年のあいだ、彼の身には様々な事件が起きていた(詳細は文庫版『僕のエア』のあとがきにて長めに記したので、ここでは概要だけにする。知りたい人は文庫を手にとって欲しい)。

 鬱病、結婚、離婚、友人の死、精神修行の道、瞑想家としての出発――端から見れば波瀾万丈な上に、小説とはまったく無関係に思える迷走。

 だが、ぼくは知っている。

 この一七年間、彼の脳裏には、ずっと「小説を書く」という使命のようなものがあったことを。

 彼が「悟り」の道を行くと決めたとき、こういう会話をした。

「滝本さんは、何のために修行をするんですか」

「気づいたんです。悟りを開けばすべての悩みは解決する……つまり、悟りを開けば小説が書けるはずなんです」

 ……普通は逆なのではないか?

 そう思われるかも知れない。だが、彼にとっては悟りより小説のほうが難しかったのだ。そう、その苦悩は、仏陀の苦悩よりも深い。

 そりゃそうだ。

 現代に生きる我々はIT革命により多くの情報にさらされ、多くの人間とつきあっている。田舎者の仏陀より大変に決まっている。

 しかし……仏陀以降、悟りがカジュアルになったとされる昨今でも、なかなか悟りを開いたという人には会ったことがない。

 これはもしかして難しいのではないだろうか? 

 そんなふうに思いつつ、数年が経ったある日のことだ。

 ふたりで散歩をしているときに、彼が言った。

「ついにぼくは悟りました。今なら小説が書ける気がするんです」

「どんな小説ですか」

「誰も傷つけない、読んだ人間の魂が自動的に救われるような究極の小説――光の小説です」

「ライト・ノベル……」

 その小説はこんな風に始まっていた。

“夜の空は町に黒くふたをしていた。星は出ていなかった。

 僕はナイロン袋に入ったバラの鉢植えを右手にぶら下げ、家の前に立っていた。バラは咲いていなかった。”

 一七年前とはまったく違う。どこか物悲しく、少年の純粋さがにじむ書き出し。ミヒャエル・エンデを思わせる瞑想的かつ、児童文学のような文体。

 物語は、不登校の少年「ふみひろ」が学校へ行くところから始まる。

 やがて、闇の大迷宮の底にいる闇の魔術師を探すエクスプローラー「ミーニャ」と出会い、日常が非日常へと変わっていく。

 そして、この小説は次第に奇妙なねじれを起こしていく。

 母と性行為をしようとしている異常さに気づくふみひろ、クラスメイトたちとの部活作り、かつて闇の小説を書いていたという先生。

 こうして要素を取り出すとおどろおどろしい部分もあるが、全体的にはさっぱりしたギャグに包まれており、あくまでライトな読み味だ。

 ただ、初期作と同じ読み味を期待した読者は困惑するかも知れない。

 ここには、かつてのネガティヴで後ろ向きな少年と、それを救ってくれる聖母のような少女は存在しない。

 青春の蹉跌も存在しない。

 存在するのは新しい少年と少女たち、そして新しい作品、新しい作者――だが、確かにこれは滝本竜彦の作品なのだ。

 この不思議な作品が広く読まれることを願う。

KADOKAWA 本の旅人
2018年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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