マッキンゼーの問題解決スキルが、感情のコントロールに応用できる理由

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マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術

『マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術』

著者
大嶋祥誉 [著]
出版社
青春出版社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784413231022
発売日
2018/10/02
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

マッキンゼーの問題解決スキルが、感情のコントロールに応用できる理由

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

日々の仕事に追われ、人間関係に悩みながら、ビジネススキルやコミュニケーションスキルを磨きたいと考えているという方は決して少なくないでしょう。

しかし、それより前に重視すべきは「心の状態」だと主張するのは『マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術』(大嶋祥誉著、青春出版社)の著者。

マッキンゼー・アンド・カンパニーなどで経営、人材戦略へのコンサルティングに携わったのちに独立し、現在はチームビルディング、組織変革コンサルティング、経営者や役員へのエグゼクティブコーチングを行っているという人物です。

どんなにスキルを身につけても、精神状態が不安定で感情が乱れていたら、決して良い結果は出せません。身体能力に優れ、テクニックを身につけているスポーツ選手でも、不安感や恐怖心などで感情が乱れていたら、試合で良いパフォーマンスを発揮することはできないでしょう。

ビジネスにおいてもまったく同じことが言えます。スキルを身につけ、それを磨くのも大切ですが、その前に、まず自分自身の感情のコントロールこそが重要。(「はじめにーー 感情を上手に仕分けるコツで、あなたの仕事・人生が一変する」より)

また、感情コントロールは個々人の性格など属性によるものではなく、それ自体がロジカルなスキルだと著者は言います。つまり、その要素と要点を知れば、誰もが身につけることのできる「技」だということ。

そこで本書においては、著者がこれまで経営コンサルティングという仕事を通じて学んできた「問題解決のフレームワーク」が、感情コントロールの技法として提示されているわけです。

しかしそれは、単に感情を抑えつけたり押し殺すものではないようです。そのエネルギーを上手に利用することによって、仕事の能力を高め、対人関係を円滑にし、人生を豊かにしていくものだというのです。

きょう焦点を当てたいのは、ネガティブな感情を生かす方法が明かされている第4章「感情を仕事の成果につなげる実践テクニック」内の「マッキンゼー流問題解決スキル=感情コントロール術」

「感情をコントロールするためには、マッキンゼーで学んだ問題解決の原則が応用できる」ということに気づいてから、著者自身も変わることができたのだそうです。

つまり、感情が乱れがちなのは、決してその人の持って生まれた資質や、性格によるものではないということ。

重要なのは、感情を問題化し、解決すべき課題に変えること。ロジカルに分析することによって、モヤモヤした感情は解決できる問題に変わっていくもの。

だからこそ、その原則を実践すれば、誰もが感情コントロールができるようになれるという考え方です。

感情コントロールの基本原則1:真の問題を見極める

たとえば、ミスの多いAさんがいたとします。そして、Aさんの問題を解決するためにBさんがダブルチェックをしていました。

一見すると、これはまっとうな解決策であるようにも思えます。しかし、実際にはそうではありません。結局はBさんの負担が増えてしまうため、またミスが発生してしまうことにもなりかねないわけです。

このケースでいえば、本当に大切なのは「なぜAさんがミスを連発するのか?」という真の問題を明らかにし、それを解決していくこと。

著者によればマッキンゼーでは、「モグラ叩きをするな」とよく言われていたのだそうです。ここでいうモグラ叩きとは、目の前に現れた問題に「とりあえず対応」すること。

これを、会社の状況にあてはめてみましょう。当然のことながら、会社内では「売り上げが伸びない」「新規開拓ができていない」「人材育成ができていない」など多くの問題が出てくるものです。

しかし、それらをモグラ叩きのようにひとつひとつ叩いて対応したとしても、それだけでは真の解決になりません。なぜなら、それら個別の問題が起きる原因として、もっと根源的な問題が絡んでいる可能性があるから。

それこそが、真の問題だということもありうるわけです。

だとすれば、その問題を解決しない限り、また新たな問題が生まれてくることになります。逆にいえば、その根本的な問題を解決すれば、派生する問題も一度に解決できる可能性が生まれるということ。

感情コントロールも同じで、大切なのは、「怒り」や「悲しみ」などの感情をまずしっかり意識化すること。そのうえで、表面的な感情にばかりとらわれることなく、「背後に潜む問題はなんなのか」「根本的な原因はなんなのか」を見極めることが重要だというわけです。(79ページより)

感情コントロールの基本原則2:問題の構造を把握する

では、本質的な問題を見極めるにはどうしたらいいのでしょうか? 

それは、問題が起きる構造を把握することだと著者は言います。そして、このことを解説するにあたって引き合いに出されているのは、「問題の構造を把握する」というマッキンゼー流の問題解決の原則。

これは問題を可視化するために行う作業で、具体的にいえば目の前の事象とその要因を分けて考えることだといいます。

先ほどの「Aさんのミスが多い」という問題であれば、「ミスが起きている」という事象と、その要因を分けて考えるということ。そしていくつか要因を挙げたうえで、「それらがどのように関連しあって事象が起きているのか」を構造的に把握するということです。

そこでAさんに話を聞き、行動などをチェックしたところ判明したのは、Aさんが作業中に電話や来客の対応にすべて応じているということ。つまり、「他の仕事に時間と労力を割かれている」という状況が浮かび上がってきたわけです。

同じように、感情の乱れについても、単に「怒っている」「悲しんでいる」という事象の認識だけではなく、その要因をいろいろ調べてみることが大切。

すると、いくつかの要因が浮かび上がってくるので、それらを検討し深掘りして考えるべき。そうすれば、真の問題が浮かび上がってくるということです。(80ページより)

感情コントロールの基本原則3:仮説を立てて検証する

事象と要因を分離し、要因を挙げることが大切だとはいっても、そのすべてを解決しなければならないということではないそうです。

理由は簡単で、要因のなかには決定的なものもあれば、あまり重要性のないもの、あるいは実際はほとんど関係のないものまで差があるから。

改めていうまでもなく、問題解決にあたっては優先順位をつけることが不可欠。つまり、重要度の高い要因から解決していく必要があるということです。

そこで、なにがいちばん大事な要因なのか、まず仮説を立て、それを検証するのがマッキンゼー流なのだとか。

先のAさんの場合であれば、集中力の欠如が主要な問題と考えて、考えを掘り下げていったわけです。それは、過去の経験や事例などを確認した結果、「おそらくここに問題があるに違いない」という直感に近い感覚が働き、ある程度見極めることができたから。

そのように判断したうえで、Aさんの基本的な能力の欠如や、精神的に不安定であるなどの別の要因を検証し、「それらが当てはまらないとなれば、集中力の欠如こそ最大の要因ではないか」と結論づけることができたわけです。

だとすれば、作業に集中できない環境を改善し、その時間帯だけは電話や来客の作業を他の社員たちが分担するなど策を講じれば、Aさんのミスを劇的に減らすことができるかもしれません。

このように、「今度はそれをどう解決していくか」、具体策を考えるという段階になるということ。(81ページより)

感情コントロールの基本原則4:解決策を導き出す<空・雨・傘の理論>

問題を分解し、検証したら、そこから最適な「解決策」を打ち出す必要があります。

そこでマッキンゼーが行っているのが、「空・雨・傘」の思考。これについては以前にもご紹介したことがありますが、いろいろなことに役立つ考え方なので、改めてご紹介することにしましょう。

「空」とは「現状がどうなっているか」という事実で、「雨」とは「その現状がなにを意味するのか」ということ。つまり現状の解釈です。そして「傘」は、「その意味合いから、ではなにをすべきか」という解決策。

いわば先のご紹介した基本原則1が「空」であり、基本原則2と3が「雨」だということ。先のAさんのミスの例に当てはめるなら、「空」はAさんがミスを連発している状態を把握すること。「雨」とは問題の構造を把握し、分析して検証すること。

つまりそのミスが、「仕事の分担ができていないことによる注意力の分散である」という分析です。「傘」は、仕事の分担を明確にするという解決策になります。

なお、感情コントロールにも、この思考は有効だそうです。まずは、現在の感情の状態を客観的に把握する(空)。次に、その感情がどのようなメカニズムで起きていて、真の原因はなにかを突き詰める(雨)。最後は、それによってどう対応すればいいかを決定する(傘)。

このように、「空・雨・傘」の思考を使えば、モヤモヤした感情も解決すべき問題となるわけです。そして、問題化することでおのずと問題は解決へと進んでいくということです。(79ページより)

仕事において最強の人物とは、競争相手をやり込めて勝つ人物ではないと著者は言います。どんな状況においても感情に流されずに自分をコントロールでき、自分の力を最大限発揮できる人こそが最強なのだということ。

なぜならそういう人は、敵よりも味方をつくれるものだから。本書で明かされているロジカルな問題解決の手法とノウハウを身につけ、そんな人を目指したいところです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年12月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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