『指導者の条件』
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ニッポンにもいたスポーツ名伯楽
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
スポーツに興味がありません。走ったり泳いだり、知り合いの子供の部活の応援に行ったりはしても、マスメディアの飯のタネになるような、赤の他人が真剣にやる競技には、たまに悪態つくぐらいで我関せず。
その赤の他人の真剣なスポーツにおいてニッポンだ世界だで勝つプレイヤーやチームを育てた名伯楽24人を描いているのが『指導者の条件』。ワタシみたいな無知かつ無恥なスポーツ音痴が手にすれば、寝るか腹立てるかのはずだったのに、いや、同じ題の松下幸之助の説教本(PHPビジネス新書)より面白かった。
そもそもワタシがスポーツで一番苦手なのは、そこにはびこる“馬鹿な指導者が馬鹿な選手を生む→馬鹿な選手が馬鹿な指導者になる→その馬鹿な指導者が馬鹿な選手を……”という馬鹿の無限ループ。ところがこの本に出てくる指導者たちは、馬鹿の襷(たすき)を繋ぐことになんぞ血道を上げない。
彼らが自分なりに確立して結果を出した指導法には、暴力に至る馬鹿も含まれてます。が、それが無自覚無反省に引き継いだ他人の馬鹿ではなく、必要に迫られて独自に生み出した己の馬鹿であるかぎり、全否定はしにくい説得力を孕(はら)む。
著者の黒井克行は雑誌ジャーナリズムでの仕事が長い書き手。新聞TVが歪める高校野球や箱根駅伝の指導者がこの新書に登場しないあたりにも目線の確かさ、というより誠実さが感じられる。オリンピックがらみの指導者まで排除した続編も出してほしいなぁ。