『平場の月』
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五十歳の再会
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
五十歳というとまだまだ若い。でも、自分の人生のこの先に大きな前進があるとも思えない。身体だって衰えてきている。時には死の訪れが近いと感じることだってあるかもしれない。その時に人は、周囲はどんなことを思うのか。
朝倉かすみ『平場の月』は、五十歳の男、青砥健将が主人公だ。都内で妻子と暮らしていたが六年前に父親を亡くし、一人残された母の近くで暮らそうと地元の埼玉に中古マンションを購入。その後妻子と別れ、三年前には卒中で倒れた母親の面倒を見るために都内の製本会社から地元の印刷会社に転職。最近になって身体の不調を感じて検査に訪れた病院の売店で、中学時代の同級生、須藤葉子に再会する。どこかどっしりと構えたところのある須藤は、実は青砥がかつて告白してフラれた相手だ。二人で酒を飲む仲となり、現在一人で暮らす彼女に、波瀾万丈の人生を歩んできたことを聞かされる。そして現在、彼女自身も身体の不調を感じ、検査を受けたことも。果たしてその結果は――。
このまま静かに老いていくのだと思われた日常に訪れた、かつての思いをくすぐる出会い。でもそれは情熱的な恋の再燃とはちょっと違う。一人は病と闘いながら自分の気持ちを密かに整理し、一人はそんな相手を淡々と支える。若い頃の恋愛とはまた違う、人間同士の慈しみが二人の関係を育んでいく。おのれの孤独を引き受けながらも誰かを求める大人の寂しさと優しさが、じわじわと行間から伝わってくる。二人の関係の結末は冒頭ですでに明かされており、だからこそ、読者は彼らの緩やかな歩みの一歩一歩を愛おしく感じるはずだ。思いやりを与え合えた二人の時間が、胸に沁みてくる。