名探偵「ミス・マープル」の短編集が新訳で再登場

レビュー

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  • ミス・マープルと13の謎【新訳版】
  • 書斎の死体
  • ポケットにライ麦を
  • 鏡は横にひび割れて

書籍情報:版元ドットコム

名探偵「ミス・マープル」の短編集が新訳で再登場

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 ミステリの女王、アガサ・クリスティが生んだ名探偵ミス・マープル。この素敵なお婆ちゃん探偵の活躍譚を収めた短編集『ミス・マープルと13の謎』が、深町眞理子による新訳で装いも新たに刊行された。

 セント・メアリ・ミード村に住むミス・マープルは一見、どこにでもいそうな穏やかな老婦人である。しかし村の人々を観察して培った洞察力で、不可解な謎を次々と解き明かす名探偵の顔を持っているのだ。

 本書にはひとりの人物が自身の体験した謎を説明し、他の登場人物たちが真相を議論し合うという形式の短編が収録されている。ディスカッションの楽しさと、話を聞いただけで謎を解いてしまう安楽椅子探偵ものの魅力が詰まった短編集なのである。

 凶器のない殺人を描いた「アシュタルテの祠(ほこら)」、幻想的な味わいもある「舗道の血痕」など趣向豊かな作品が揃っているが、謎解き小説としての完成度では「クリスマスの悲劇」と「バンガローの事件」を挙げておこう。前者は些細な情報から推理を広げる過程が素晴らしく、後者はクリスティならではの欺きの技が見事に決まった一編だ。

 本書でミス・マープルを気に入った方は、ぜひとも長編の傑作群にも手を伸ばして頂きたい。まず手始めに『書斎の死体』(山本やよい訳、クリスティー文庫)と『ポケットにライ麦を』(宇野利泰訳、同)の二作を読むのが良いだろう。『書斎~』は短編に登場するバントリー大佐夫妻の家で起こった奇妙な事件を描くもので、ミステリのお約束をわざと外していく展開が愉快だ。

 一方『ポケットに~』は自身が仕込んだ若いメイドが殺され、義憤に駆られたミス・マープルが犯人探しに乗り出すという話である。マープルに愛らしいイメージを抱いていた読者は、本作で正義の炎を燃やす姿に驚嘆し、痺れるに違いない。

 この二作で更にミス・マープルのファンになったら、『鏡は横にひび割れて』(橋本福夫訳、同)もぜひ。様変わりしたセント・メアリ・ミード村で起こる悲劇の糸を辿る、クリスティ円熟の境地というべき小説だ。

新潮社 週刊新潮
2019年1月31日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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