<東北の本棚>安楽に浸る人間へ警鐘
[レビュアー] 河北新報
著者は能代市出身で、現在愛知県東海市に暮らす70代の女性画家。シュールな画風の油彩・アクリル画約70点と寓話(ぐうわ)的な文章を用いて、水との関わりを独自の視点で語る。
前半は、宮沢賢治を想起させる幻想的な作品が並ぶ。「月」「石」「森」など、賢治作品で見られるモチーフを使いながら、自然破壊を続ける現代人に対して警鐘を鳴らしている。
中盤は著者の少女時代の思い出を下敷きに思いを巡らせる。筆者の自宅近くにあった農業用ため池「小友沼(こゆうぬま)」に関わるエピソードが興味深い。盆栽用のコケ採取に出掛けた父親が、娘に「ささ銀の笛」を歌って聞かせる場面は、子を持つ親の心情がにじむ。
牧歌的な様相が一変するのは、「東日本大震災」を主題に展開する後半以降。夢見るような浮遊感は霧散。テレビが伝える惨状にうろたえつつも、募金運動に奔走する自身の姿を記す。
驚くのは、掲載した絵の多くが震災以前の制作でありながら、津波を思わせる表現が頻出している点だ。まるで未来を予見していたかのようだが、筆者は「負の予兆を描いているのではない」と否定する。
「便利と安楽に浸った人間」もいつか「これではいけない」と、英知を働かせて動きだすはずだと、期待を寄せる。
風媒社052(218)7808=2160円。