144万部突破『響け!ユーフォニアム』武田綾乃さんが次に選んだ部活は…⁉『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』発売記念インタビュー

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君と漕ぐ : ながとろ高校カヌー部

『君と漕ぐ : ながとろ高校カヌー部』

著者
武田, 綾乃, 1992-
出版社
新潮社
ISBN
9784101801476
価格
649円(税込)

書籍情報:openBD

144万部突破『響け!ユーフォニアム』武田綾乃さんが次に選んだ部活は…⁉『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』発売記念インタビュー

[文] 新潮社

武田綾乃さん
武田綾乃さん

吹奏楽部を舞台にした累計144万部突破の大人気青春シリーズ『響け!ユーフォニアム』の著者、武田綾乃さんの次に取り組むテーマは、なんと「カヌー部」。意気込みを著者に聞きました。

“カヌー”を題材に選んだ理由とは

――武田さんの代表作『響け!ユーフォニアム』には、ご自身の吹奏楽部経験が活かされています。今回新作でカヌーという珍しい題材を選ばれたのはなぜですか?

武田 私の地元の京都にはカヌー部が盛んな高校があって、弟も高校でカヌーをやっていたので馴染みがあったんです。「そういえば、カヌーをテーマにした小説ってあまり聞かないし、いずれ書いてみたいなあ」とずっとアイデアを温めてきました。

――武田さんにはカヌー経験がまったくなかったそうですが、取材はどのように行われたのですか?

武田 いろんな形でカヌーの勉強をしました。まずはカヌーの資料を探しましたが、文献がとても少なくて。それでウェブの記事を読んだり、You Tubeを見たりもしました。でもやはり、カヌー部の指導をされている先生やOGの方々のお話が本当に役に立ちましたね。埼玉県大会やインターハイなど、大会も何度か見に行きましたし、オリンピックのボランティア講習会も受けたんですよ。

――取材して大変だったこと、驚いたことは?

武田 当たり前のことですが、カヌー競技は川や湖で行われているので、気候に左右されます。精進湖で取材したときは、前日は寒くて震えるほどだったのに、翌日は真夏のような炎天になって、その変わりやすい天気に驚きました。過酷な状況下で競技を行う高校生のみなさんを尊敬してしまいました。
 実際に見たカヌーのレースは、本当にスリリングで面白いです。私が見たのはスプリントですが、羽根田卓也選手がリオ五輪でメダルを取ったカヌースラロームのほか、カヌーポロやドラゴンカヌーなど、いろいろな種類の競技があり、知れば知るほど奥が深いと感じました。

――レースの場面は臨場感たっぷりでした。経験がないのに書くのは苦労されたのではないでしょうか。

武田 実はそこはあまり苦労しませんでした。物語展開を考えたりするほうがずっとつらいですね。情景を描くときは、VRを見ているときのように、物語のなかに自分を没入させて、そこで感じたものをただ文字で起こすだけなんです。ちょっとおこがましいのですが、仏像の彫り師が、設計図もなくただひたすら手を動かしてイメージを形にしていくような感覚です。

「響け!ユーフォニアム」シリーズとは違う作品を

――大人気の「響け!ユーフォニアム」シリーズと同じ“部活小説”である『君と漕ぐ』を書くにあたり、意識したことはありますか?

武田 はい。次のシリーズ作品では「ユーフォ」とはまったく違うものを、と思っていました。キーワードは、「少人数」「関東」「運動部」の三つです。
「ユーフォ」は吹奏楽部の物語なので、部員が百名を超えます。だから『君と漕ぐ』では、四人だけのカヌー部を舞台にして、少人数の関係性を書きたいと思いました。
 それと「関東」。「ユーフォ」は京都が舞台でほとんどの登場人物が関西弁で会話しているので、標準語のセリフを書きたくて、埼玉の長瀞の設定にしました。
 そして、「運動部」も書いてみたかったんです。「ユーフォ」で描いてきた音楽は、「うまい」「へた」の区別はついても、そこから先の評価基準は複雑です。それに比べてカヌースプリントは、タイムで明確に勝ち負けが決まるので、速い子が圧倒的に「強い」。実力の違いがわかりやすくて、もやもやが入り込む余地のない、そのシンプルさに惹かれました。

――なるほど。埼玉は武田さんにとって馴染みのない土地だと思うのですが、埼玉県民おなじみのローカルネタが盛り込まれていて、社内の埼玉出身者がざわついていました(笑)。

武田 知り合いに寄居の人がいたので、「地元の人しかしらないディープな埼玉ネタを教えて」とお願いしたんです。そしたら「“十万石まんじゅう”のCMの“うまい、うますぎる”は鉄板だから」と言われて(笑)。
 現地にも何度か足を運びました。長瀞は自然たっぷりで見所も満載の素敵なところでしたし、秩父鉄道の波久礼駅や野上駅の古くて味のある駅舎は忘れられません。

――小学生のときからカヌーでペアを組んできた希衣と千帆。そんな二人だけのカヌー部に、一年生の恵梨香と舞奈が入部することで、『君と漕ぐ』の物語は始まります。新人離れした実力を持つ恵梨香の存在が、先輩たちの関係に波紋をもたらしますが……カヌー部女子のなかで、武田さんが特に思い入れのあるキャラクターはいますか?

武田 思い入れというのとは違うのですが、二年生の希衣はプロットの段階では「熱血の先輩」という記号的なキャラクターだったのですが、書いていくうちにどんどん多彩な感情が出てきて、最初の想定以上に複雑で深い人物になりました。

――ご自分にも近いところがあると思いますか?

武田 いや、普段からキャラと自分は切り離しているのですが、強いていうなら顧問教師の檜原ちゃんが一番近いですね。と歳も近くて、若くて未来のある高校生をのんびり見守るという感じが似ています(笑)。
 誰か一人に感情移入して、というより、女子高生たちの「関係性」を描くのが楽しいですね。「ユーフォ」のときから、物語を展開させるときには基本、ペア関係を作るよう意識してきました。「このエピソードでは、あの子とこの子に焦点を当てよう」といった具合です。

――なるほど。『君と漕ぐ』では、タイトルにもそれが現れていますね。「君」に当たるキャラは物語が進むにつれ変わります。

武田 はじめは一年生の舞奈と恵梨香、二年生の千帆と希衣がペアになっているのですが、それが変化していきます。特に千帆と希衣のペアは、いままで書いたたことがない関係性ですね。二人がそばを食べながら、互いのカヌーに対する思いの違いを認識して、ペアを続ける限界を悟る場面が、切なくて気に入っています。

――反対に、終盤における希衣と恵梨香が語らう場面には、まるで恋が始まるときのようなときめきがありました。

武田 憧れをともなった友情って、恋愛感情と似ていますよね。誰かと誰かが距離を縮める、あるいは誰かと誰かが自立のために距離を取る、という関係性の変遷をうまく出せたらいいなと思って書いていました。

旺盛な執筆活動の秘訣

――武田さんは昨年だけで『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』の二冊の単行本と、「ユーフォ」シリーズの文庫一冊を刊行され、並行して連載していた『君と漕ぐ』を今回完成させました。驚異的な多作の秘訣は何でしょうか。

武田 書きたいテーマは本当にたくさんあって、アイデアだけは次々湧いてくるんです。それを形にしようとして必死で書いているうちに、本がたくさん出ていた、という感じですね。You Tuberの話や、女子大生の話なども書きたいし、探偵ものや、めちゃくちゃ怖いホラー小説も書いてみたい、と思っています。

――早くも小説誌「yom yom」では「君と漕ぐ2」の連載がスタートしています。

武田 はい。カヌー部四人の成長も見てほしいですし、今後は、「少年ジャンプ」のように、魅力的なライバルをどんどん登場させたいですね(笑)。
 カヌーという競技は、知れば知るほど面白いので、この小説をきっかけに興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいです!

 ***

武田綾乃(たけだ・あやの)
1992年生まれ。2013年作家デビュー。著作に『響け!ユーフォニアム』シリーズのほか『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』など。

新潮社
2019/02/18 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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