【文庫双六】江戸期を舞台に描いた横溝正史の「ドラキュラ」――梯久美子

レビュー

9
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髑髏検校

『髑髏検校』

著者
横溝 正史 [著]/片岡 忠彦 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784043555062
発売日
2008/06/25
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

江戸期を舞台に描いた横溝正史の「ドラキュラ」

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

【前回の文庫双六】アルプスの景観と「おぞましい生き物」――川本三郎
https://www.bookbang.jp/review/article/563406

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『フランケンシュタイン』と並ぶ怪奇小説の古典といえば、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』。小学校の図書室の棚にはこの2冊が並んでいた。もちろん子供向けにリライトされたものである。

 子供向けに限らず、この2作品に関しては多くの翻案や二次創作がある。特に吸血鬼は作家たちの想像力を刺激するようで、ドラキュラ伯爵を主人公としない吸血鬼ものを含めると膨大な数になる。

 吸血鬼小説を読み漁った時期が私にはあり、中でも名作だと思うのが、アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』である。「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」として1994年にトム・クルーズとブラッド・ピット主演で映画化された。

 当時、映画関連の仕事をしていた私は、パンフレットの文章を担当したが、試写を見たときの衝撃は忘れられない。あまりの美しさとおそろしさに身体が震えた。原作に劣らない傑作だと思うが、いまだに恐くて見返す気がしない。

 できればこの小説を取り上げたかったのだが、アン・ライスのヴァンパイアシリーズの文庫は品切れで入手困難。そこで基本に立ち返り、『吸血鬼ドラキュラ』の忠実な翻案である、横溝正史の『髑髏検校(どくろけんぎょう)』を紹介したい。

 タイトルで分かる通り、舞台を江戸時代の日本に置き換えている。外房州白浜で、鯨の腹からフラスコに入った書物(かきもの)が出てきたところから物語は始まる。そこには長崎の蘭学生が嵐のため流れ着いた島で、漆黒の髪を肩にたらし、白絹の小袖に緋の袴をつけた異様な男に出会った経験が綴られていた。怪物めいたその男は、やがて江戸にやってくる。

 原作のエッセンスをもれなく詰めこみ(柩(ひつぎ)もニンニクも巨蝙蝠(おおこうもり)も登場)、かつ江戸ならではの道具立てで、無気味でありつつ痛快な怪異談に仕立てた手腕はさすが。アン・ライスにも通じる美少年趣味がちりばめられていることに、今回再読して気がついた。

新潮社 週刊新潮
2019年2月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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