『あの日のオルガン』
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<東北の本棚>疎開園児を守った保母
[レビュアー] 河北新報
太平洋戦争末期、空襲の危機に直面した東京の保母(現在の保育士)たちが園児を疎開させ、命を守った実話に基づく物語。2月22日に全国公開された同名映画の脚本を小説化した。
国は1944年、国民学校の生徒を集団疎開させたが、幼児と親たちは都市部に取り残された。品川区の戸越保育所は仲間の保育所と合同で計53人の園児を埼玉の農村部に疎開させる。
保母たちは荒れ寺を掃除し、不眠不休で世話をする。親元を離れた不安から、園児のおねしょが頻発し、食糧や物資の不足に泣かされる。厳しい保育の現場をリアルに描写した。
主人公の保母2人の個性を際立たせた。天真らんまんな光枝は園児たちを林に連れ出しておしっこをさせたり、落ち葉に埋もれて熟睡し、「さらわれたのでは」と騒ぎになったり。
先輩から叱られてばかりだが、子どもたちから最も慕われる。マニュアル通りにはいかない保育の在り方を考えさせられる。
光枝の先輩楓(かえで)は「怒りの乙女」と呼ばれ、指導力を発揮するが、終戦後、園児たちを親元に届けると、突然うずくまってむせび泣く。
若い女性が青春を犠牲にせざるを得なかった悲惨さや、生き直す機会を得られた希望の未来を暗示する。
著者は1956年山形市出身のフリーライター。
朝日新聞出版03(5540)7793=648円。