世界で独演会の“ミニマリスト落語家” 立川一門も驚き

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その落語家、住所不定。

『その落語家、住所不定。』

著者
立川こしら [著]
出版社
光文社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784334043940
発売日
2019/01/19
価格
836円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

一門もみな驚く“スケール感”発想の原点を知るユニークな一冊

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 著者のスケール感に、落語立川流は驚いている。独演会を国内のみならず、オーストラリア、アメリカ、メキシコ等で催しているのだ。さほどビッグでもないのになぜ?が一門の疑問なのである。

 神出鬼没で「今朝パースから戻りました」ってなことをシレッと言う。「眠らない」との噂もあったが、まとめ寝ができないため、列車内や機内で睡眠を取ることを本書で知った。「家がないらしい」との噂もあり、本当にないことをこれまた本書で知った。どうなっているのか?

 基本はホテルを渡り歩く。タンスはアマゾンだと言い切る。「必要な衣服だけ注文して、使ったら捨てる。洗濯だってほとんどしない。(中略)次に泊まる予定のホテルに、アマゾンから衣服が届いている。今日までの服はそこに脱ぎ捨てて、新たなシャツで次の仕事場に向かう」と言うのだ。

 こうして著者は身一つで飛び歩いているのだが、問題は商売道具である着物だ。これだけはどうしても嵩張(かさば)る。「そこで便利なサービスの手を借りるのだ。レンタルコンテナ! 駅からも近く、換気扇完備なんて条件はいくらでもある」と、旧弊な私としては目のつけどころに驚くのだ。

 著者が入門時からこうだったわけではない。ここに至る過程が読みどころで、発想が飛び過ぎではと思いつつも、その行為行動に納得するのだ。著者は「高速落語」と称し、大ネタを数分で披露し、時間がたっぷりあると、元ネタが分からなくなるほど改作を施す。そしてそれは「ライバルの多い場所で勝てないと感じるならば、自分が勝てるジャンルを探せばいい」とのスタンスからきている。ウィークポイントを知り、得意ジャンルで勝負しているのだ。

 著者は志らくの弟子である。本書において、何度も志らくに感謝している。前座修業あったればこその今の自分とも言っていて、紛れもなく立川流の落語家なのである。

新潮社 週刊新潮
2019年3月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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