故・橋本治さんの遺著に見る混乱の時代を切り拓く思考術

レビュー

8
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思いつきで世界は進む

『思いつきで世界は進む』

著者
橋本 治 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784480071965
発売日
2019/02/05
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

混乱の時代にこそ貴重だった橋本治の思考の道筋

[レビュアー] 碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 作家の橋本治が亡くなった。1月29日のことだ。気がつけば、新刊は必ず手に取っていた。そして、「いつもの橋本節だ」とか、「今回は読みやすいなあ」とか、勝手なことを言いながらページをめくってきた。遺著『思いつきで世界は進む――「遠い地平、低い視点」で考えた50のこと』は、PR誌「ちくま」の巻頭随筆、2014年7月号から18年8月号までの分だ。

 振り返れば、14年に集団的自衛権行使容認の閣議決定。同年には特定秘密保護法も施行され、15年に安全保障関連法が成立する。16年にトランプ氏が米大統領選で勝利。17年は森友学園問題が発覚し、「共謀罪」法が成立した。国内も世界も、いい時代とは言えない。

 橋本はこれらの事象に目を向けるが、そこにはジャーナリスト的な分析や、論客的な主張はない。ああでもなくこうでもなくと、自分の頭で考えたことのみを言語化していく。その思考の道筋に、はっとするような言葉が刻まれるのだ。

 たとえば、「政治上のリーダーが、気に入らない他人の言うことをまったく聞かなかったら、それは強権政治だろう」。また「疚(やま)しいことを抱えた人間は、明確に曖昧なことを言う」。

 さらに、「重要なことは、悪い支配者を倒すことではなく、悪い支配者を反省させること」。

 そこにあるのは、決して分かりやすくはないけれど、橋本治以外、展開する人がいない論旨だ。もう新しい文章が読めないと思うと、やはり寂しい。合掌。

新潮社 週刊新潮
2019年3月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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