『新章 神様のカルテ』
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[本の森 医療・介護]『新章神様のカルテ』夏川草介/『泣くな研修医』中山祐次郎
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
本来、医療小説は医師が関わる病気と病院の物語が本道であった。しかし高齢化社会がすすみ、介護や終末医療がクローズアップされるようになると、医者も病院も出てこない変化球の小説が珍しくなくなった。
今回の2冊は久しぶりの直球ストレート、どまんなかの医療小説である。
夏川草介『新章神様のカルテ』(小学館)はベストセラー小説『神様のカルテ』シリーズの最新作。すでにシリーズは4冊で320万部という大ヒットである。
主人公の栗原一止は、前作まで信州にある「24時間365日対応」の本庄病院で働く内科医であった。熱血漢の若手医師としての活躍に読者は熱くなったのだ。
医師になって9年。2年前から、一止は信濃大学病院の消化器内科第三班「栗原班」にいる。医局に勤める傍ら、大学院生として研究も続ける忙しい毎日を送っていた。妻の榛名との間に小春という娘も生まれた。小春は生まれつき股関節に疾患をもっているが、のびのびと育っている。
大学医局は「白い巨塔」と例えられる。膨大な人が働き、最先端医療と卓越した技術によって地域を支える要となっている。それゆえ、独自のルールがまかり通り、時には患者を主にした医療ではなくなってしまう。しかし医師たちは研究を続けるため、そして保身のため、ともすればそのルールに雁字搦めになってしまう。
一止は直情型の後輩、利休こと新発田医師とともに若き女性膵癌患者の末期(まつご)に立ち会う。大学病院という枠組みから彼らは逃れられるのか。
新しい医療技術の習得と組織の人間関係に悩み成長する若き医師の姿は、このシリーズにあらたな方向性を打ち出した。続編が気になる。
中山祐次郎『泣くな研修医』(幻冬舎)は、栗原一止の10年前の姿を彷彿とさせる新米医師の物語。
雨野隆治、25歳。一日の外来患者1000人、救急車受け入れ数年間3000台、ベッド数500床という東京下町の総合病院の外科で研修医1年目を過ごしている。
ある日、高速道路での交通事故のため5歳の少年が運ばれ緊急手術が行われた。隆治は第二助手として参加するが、終了後倒れてしまう。彼には幼いころ、兄を亡くした記憶があったのだ。
医師免許を持ちながら、何もわからずおろおろする自分を恥じ、それでも懸命に患者と向き合おうとする姿が清々しい。鹿児島大学医学部を卒業後、都内の病院で研修した著者自身の経験に裏打ちされた、現場の臨場感はさすがである。
無力感に苛まれ、はやく一人前になりたいと焦り、無理を重ねる真面目さは、どの業界の新人も同じだろう。医療は過ちの繰り返しで進歩する。そんなことを改めて考えさせられた一冊だ。