「働く理由」を考える3つの言葉。夢と目標を持って付き合う人は選ぼう
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『新!働く理由』(戸田智弘著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、99もの名言を取り上げた2007年発行の『働く理由』をバージョンアップした改訂版。
前著から12年間の歳月のなかで話題となったトピックスを意識しつつ、入れ替えるべき名言を吟味し、加筆修正していったのだそうです。
私たちは今、すべての人が「働くことを哲学しないといけない時代」に生きている。 まず、大前提として私たちは近代社会に生きている。
(中略) 近代社会になると、生まれによってほとんどが決まってしまうような生き方は否定され、共同体ではなく個人が社会を構成する基本単位となった。
近代に生きる私たちは自分の将来を自分で選び取り、その可能性に向かって生きる自由を手に入れたのだ。(「『新!働く理由』はじめに」より)
とはいえ、「自由である」とはよいことばかりではないと著者は言います。
なぜなら「自分はどういう仕事に就くのがよいのか」「どのように生きていくのがよいのか」を考えて、自分の進路を選び取らなければならないから。
しかも、仕事観や人生観についての問いには正解がありません。
そして正解のない問いについて、言葉と推論を用いて考え、納得解を模索することが「哲学する」ことだというのです。
それがうまくできないと、自由は重荷になり、不安に取り憑かれて立ち往生することになるでしょう。
われわれはいま、江戸時代の人は考える必要のなかったこと、あるいは明治・大正・昭和の時代を生きた人だって考える必要のなかったことまで考えないといけない時代に生きているのだと著者は言います。
いよいよ平成が終わりますが、その流れが変わることはないでしょう。しかし、だからこそ、自分のできる範囲で考えてこの時代を生きていくしかないのです。
こういう何だかたいへんな時代の中、「働くっていうことはどういうことだろうか」についてあれこれ考えて「現時点で私はこう思うのだが、あなたはどう思いますか」というのがこの本の趣旨である。(「『新! 働く理由』はじめに」より)
そんな本書の9「『夢や方向性を持つこと』と『努力すること』」の中から、3人のことばを抜き出してみたいと思います。
夢や理想を捨てるな
理想を捨てるな。自分の魂の中にいる英雄を捨てるな。誰でも高みを目指している。理想や夢を持っている。
それが過去のことだったと、青春の頃だったと、なつかしむようになってはいけない。今でも自分を高くすることをあきらめてはならない。
いつのまにか理想や夢を捨ててしまったりすると、理想や夢を口にする他人や若者を嘲笑する心根を持つようになってしまう。
心がそねみや嫉妬だけに染まり、濁ってしまう。向上する力や克己心もまた、一緒に捨て去られてしまう。
よく生きるために、自分を侮蔑しないためにも、理想や夢を決して捨ててはならない。
哲学者 ニーチェ「ツァラトゥストラはかく語りき」(『超訳ニーチェの言葉』白取春彦編訳、ディスカヴァー)
(156ページより)
夢や理想を持つのはとても大切なこと。そういうものが持てれば、そこに至る道のりや方法を考えて実行していくことによって日々の生活が活動的になるからです。
夢や理想、目標は活力のもとであり、退屈と沈鬱を撃退してくれるということ。
ところで仕事や人生を考えるとき、夢という言葉はいつでも肯定的に使われるわけではないと著者は指摘しています。
子どものころは「夢を持て!」と励まされることが多いものの、年齢が上がっていくにつれて「そんな夢みたいなことを言って…」と笑われるようなことが増えてくるわけです。
広辞苑によれば、夢には次のような4つの意味がある。(1)睡眠中に持つ幻覚、(2)はかない、頼りがたいもののたとえ、(3)空想的な願望、心の迷い、迷夢、(4)将来実現したい願い、理想。 ここで関係するのは(3)と(4)である。二つの違いを私は次のように考える。
第一に、夢(将来のあるべき自分)と現在の自分のギャップを自覚しているか?
第二に、そのギャップを埋めていく戦略や戦術をぼんやりとでもイメージできているか?
第三に、夢に向かって懸命に努力し、一歩ずつでもその階段を上っているか? (157~158ページより)
この3つの条件を満たしているとき、その夢は「(4)将来実現したい願い、理想」という意味になるということ。
しかし3つの条件を満たしていないと、その夢は「(3)空想的な願望、心の迷い、迷夢」という意味になってしまうのです。
そういう意味では、この3つの条件がクリアできていない人の多くは、現実逃避として夢を見ているだけだということになるかもしれません。
夢に向かって懸命に努力しないのは、どういうふうに努力すればいいのかがわからないというより、その努力が無駄になることを恐れているのだと著者は言うのです。(156ページより)
目標を持つこと
人生の悲劇は、目標を達成できなかったことにあるのではない。 達成すべき目標をもたないことにあるのだ。
教育家・黒人運動指導者 ベンジャミン・メイズ (159ページより)
「夢や目標を持ったとしても、それが叶わなかったらしようがないんじゃないか」と、冷めたことを言う人もいるでしょう。
しかし重要なのは、夢や目標が達成できたかではなく、達成すべき夢や目標を持って毎日を生きているかどうか。
そういうものがまったくないと、自分で自分の人生をコントロールできているとはいえないということ。
なにかをするということは、なにかを目指すこと。そして、その目指すことがなければ、取り立ててなにもしない日々を送ることになるはず。
人間は植物ではなく動物なので、基本的に活動を好むもの。そのため、活動的になると脳も喜ぶことになるそうです。(159ページより)
つきあう人を選ぶ
「君には無理だよ」と言う人のことを聞いてはいけない。 もし、自分で何かを成し遂げたかったら、 出来なかった時に他人のせいにしないで自分のせいにしなさい。
多くの人が、僕にも君にも「無理だよ」と言った。 彼らは、君に成功してほしくないんだ。
なぜなら、彼らは成功できなかったから。 途中であきらめてしまったから。
だから、君にもその夢をあきらめてほしいんだ。 不幸な人は、不幸な人を友だちにしたいんだ。 決してあきらめては駄目だ。
自分のまわりをエネルギーであふれ しっかりした考え方を、持っている人でかためなさい。自分のまわりを野心であふれプラス思考の人でかためなさい。
近くに誰か憧れる人がいたらその人に、アドバイスを求めなさい。 君の人生を、変えることができるのは君だけだ。
君の夢がなんであれ、それに向かっていくんだ。 なぜなら、君は幸せになるために生まれてきたんだ。
プロバスケットボール選手 マジック・ジョンソン 『スポーツ感動物語 第2期<3>偉大なる英雄、悲劇のヒーロー』(学研教育出版)
(170~171ページより)
「人間」ということばが示すとおり、われわれは人と人との間で生きているものです。周囲にいる人間に影響を与え、周囲の影響を受けながら生きているのです。
そして、親を選ぶことはできないけれど、友人を選ぶことは可能。マジック・ジョンソンのことばにあるとおり、「自分のまわりをどういう人で固めるか」を考えなければいけないということ。
そのことに関連して、著者は2つのポイントを挙げています。
(1)夢や目標を語ったとき、「無理だよ。やめとけ」と言うような友人とは付き合わないこと。あなたが失敗して傷つくのを心配しているのか、あなただけが夢や目標を実現してしまうのが許せないのはわからない。
いずれにせよ、百害あって一利なしだ。 「できるんじゃない。頑張ってやってみろよ」と言うような友人を選ぼう。
(2)他人の悪口ばかり言っている人とは付き合わないこと。人の悪口ばかり言っている人は、基本的に暇な人である。なぜ暇かというと、夢や目標を持っていなくて、それに向かって努力をしていないからだ。
そういう人の意識は「未来」ではなく「過去」に、「自分」ではなく「他人」に向かう。向上心に欠ける反動のあまり、人を引きずり下ろすことに喜びを感じるのだ。(172~173ページより)
次は、上司や同僚について。
社会人の場合、友人と過ごす時間よりも上司や同僚と過ごす時間のほうが圧倒的に長いもの。
そのため、「自分のまわりをどういう人で固めるか」が非常に重要だという考え方です。
(1)自分のロールモデル(お手本となる人物)が職場の中にいるか?
言い換えれば、尊敬できる先輩が組織の中にいるか? 普通の人にとってロールモデルは遠い世界ではなく、身近な世界で見つける必要がある。
大谷翔平や孫正義ではなくて、一緒に働いている人でなければいけないということだ。それが見つけられない場合は転職を考えてもいい。10歳年上の先輩を見てみよう。10年後の自分の姿は、今のあの先輩の姿だ。
(2)優秀な奴が多い職場かどうか?組織の中で「自分が優秀な方だ」と感じているのなら、それは「井の中の蛙」となっている可能性が高い。
能力は「自分より優秀な人」と働かない限り、伸びない。部活動を思い浮かべてみよう。自分よりも下手な連中と一緒に練習しても上手くなりはしない。
上手な連中と日々練習して「俺って本当に下手だなあ~」と毎日のように思って打ちひしがれ、「どうしたらあいつのように上手くなれるのか」と考えて、目を皿のようにして上手い奴の技術を盗み、ひそかに努力をすることで少しずつ能力が上がっていく。
(173~174ページより)
これらのポイントを日常的に意識する習慣をつけるだけで、人との関係が改善されるかもしれません。(172ページより)
いうまでもなく、仕事は人生の一大事。ましてや今後は、一生の間になんども職業を選択しなければならない人が増えてくることでしょう。
しかし、「人はなんのために働くのか」「好きなことを仕事にすべきか」というようなことについて、ひとりで考えていてもうまくいきません。
大切なのは、“人生の先輩たち”と心のなかで対話しながら考えてみること。
そのために、本書で紹介されている名言を味わい、その意味にじっくりと思いをめぐらせてほしいと著者は記しています。
そういう意味でも、新しい時代の幕開けにぜひ読んでおきたい一冊だと言えるでしょう。
Photo: 印南敦史
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