魔眼(まがん)の匣(はこ)の殺人 今村昌弘著

レビュー

4
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魔眼の匣の殺人

『魔眼の匣の殺人』

著者
今村 昌弘 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488027964
発売日
2019/02/20
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

魔眼(まがん)の匣(はこ)の殺人 今村昌弘著

[レビュアー] 千街晶之(文芸評論家・ミステリ評論家)

◆「死ぬ」予言に立ち向かう

横溝正史(よこみぞせいし)の名作『獄門島(ごくもんとう)』は、三人の妹が殺されるから助けてくれ…と戦友から依頼された金田一耕助が獄門島に赴くも、結局誰も救えなかった物語だった。ミステリにおいて、名探偵が闘う対象は連続殺人を最後まで遂行しようとする犯人の執念なのか、それとも、犯人が味方につけた運命なのだろうか。

デビュー作『屍人荘(しじんそう)の殺人』がベストセラーとなった今村昌弘の第二作『魔眼の匣の殺人』は、必ず的中する予言を相手に廻(まわ)して闘う名探偵の物語である。屍人荘の事件から生還した剣崎比留子(ひるこ)と葉村譲(ゆずる)は、かつて超能力の研究が行われていた施設を訪れた。そこに住む老女は、あと二日のうちに、この地で四人死ぬと告げる。外界から孤立した施設に足止めされた十一人のうち、誰が命を落とすのか。

本書には百発百中の予言をする老女のほか、絵を描くことで近い未来を予知できる人物も登場する。『屍人荘の殺人』がある種の超自然的な出来事とロジカルな本格ミステリとを融合させていたのと同様、本書も予言という超自然的現象が前提となっているのだ。比留子は予言の成就を食いとめるためにある手を打つが、果たしてそれは有効なのか。連続死を阻止できなければ名探偵とは言えないだろうし、かといって簡単に阻止できるならば畏(おそ)れるに足るほどの予言ではない。この作劇上のジレンマに著者がどのような決着を与えるかが本書の注目すべき点だ。

その決着に先立ち、比留子は譲に、これはミステリの解決編ではなく、自分と犯人との人生を懸けた死闘だと宣言する。『獄門島』をはじめとする多くのミステリにおいても、名探偵と犯人の対決は、両者の知力の勝負にして、互いの人生や運命を懸けた死闘という側面もあったのではないか-と改めて考えさせる劇的なクライマックスだ。

事件に一応の決着がついたあとの伏線回収も見事で、謎解きの論理性において前作を凌駕(りょうが)する作品となった。著者が、二作目への期待というプレッシャーとの闘いに勝ったのは確かである。
(東京創元社・1836円)

1985年生まれ。作家。2017年『屍人荘の殺人』で鮎川哲也賞などを受賞。

◆もう1冊 

綾辻行人(あやつじゆきと)著『十角館の殺人』(講談社文庫)。新本格ミステリの嚆矢(こうし)となった作品。

中日新聞 東京新聞
2019年4月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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