幻想の経済成長 デイヴィッド・ピリング著

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幻想の経済成長

『幻想の経済成長』

著者
デイヴィッド・ピリング [著]/仲 達志 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784152098450
発売日
2019/03/20
価格
2,310円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

幻想の経済成長 デイヴィッド・ピリング著

[レビュアー] 廣瀬弘毅(福井県立大准教授)

◆GDPだけで測れぬ幸福

 経済成長は、人々の幸福度の向上につながっているに違いないと考えがちだ。だが、経済を測る指標自体が誤っていたら、経済構造の姿も歪(ゆが)められ、幸福にはつながらないのではないか。全てとまでは言わないが、経済が抱えている問題の多くは、誤った指標の選び方・使い方によって引き起こされているか、あるいは見過ごされているのではないか。これが、著者の問題意識の出発点である。

 現在、経済の大きさや成長を測る場合には、GDP(国内総生産)と呼ばれる指標が用いられる。ところが、一九三〇年代に生み出されたこの指標には、数多くの欠点がある。例えば、自然環境を犠牲にした生産活動や、場合によっては非合法的な活動さえも生産に貢献しているとしてGDPに計上される。また、財の生産の計測には強いがサービスを測るのは苦手であり、インターネットによるビジネスともなればほとんどお手上げである。

 それだけではない。GDPと我々の幸福の実感はかけ離れたままになっている。なぜなら、我々の住む環境の状態や人々との信頼関係など幸せに深く関わる要因が、GDPには含まれていないからである。では、そういった要因も考慮した指標を作れば良いのではないか。例えば幸せの国ブータンが採用しているGNH(国民総幸福量)、あるいは世界的な経済学者が指導して作ったHDI(人間開発指数)はどうだろうか。ところが、残念ながらこれらの指標も一長一短があるのである。

 GDPはその明快さゆえ、あらゆる尺度の頂点に君臨していることが問題なのである。著者は、ベテランのジャーナリストらしく、GDPのような数字に懐疑的であれと言う。そして、「GDPに取って代わるのではなく、むしろそれを補完する形で、世界のより微妙な側面まで反映できる尺度を具体化していく」ことが大事だとしている。

 つまり、尺度自体が問題というよりも、それらの尺度とどう向き合うかという我々の心構えが問われるべきなのかもしれない。

(仲達志訳、早川書房・2268円)

英フィナンシャル・タイムズの元東京支局長。著書『日本-喪失と再起の物語』。

◆もう1冊 

森正人著『豊かさ幻想-戦後日本が目指したもの』(角川選書)

中日新聞 東京新聞
2019年5月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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