【児童書】『とりあえず ごめんなさい』五味太郎作
[レビュアー] 加藤聖子
■怒りも一転、味わい深く
とりあえず「ごめんなさい」。世の中には、そう言っておいた方がいいときもある。そんな場面がいろいろ紹介されているのが本書だが、作者は絵本界の巨匠、五味太郎氏。どんな悪事が起こるのかと思いきや、ひとクセもふたクセもある絶妙なシチュエーションが展開され、思わずクスッと笑ってしまう。
例えば、運動会の万国旗と一緒に洗濯物が干されていても、桃太郎が、いざ鬼退治と向かった鬼ケ島が高級リゾートになっていても、とりあえず「ごめんなさい」と言われると、怒りを買ってもおかしくなさそうな場面が一転、面白く、味わい深く思えてくる。
登場人物たちには悪気もないし、失敗しているわけでもない。むしろ、かろやかに「ごめんなさい」と前置きしながら、縦横無尽に自分の世界を満喫し、たくましく生活している。
それぞれ「ごめんなさい」な状況になるまでに、一体何が起こったのか。もしこんな「ごめんなさい」に出くわしたら…あれこれ想像がふくらんで面白い。(絵本館・1300円+税)
加藤聖子