『泡坂妻夫引退公演 絡繰篇』
- 著者
- 泡坂 妻夫 [著]/新保 博久 [編集]
- 出版社
- 東京創元社
- ジャンル
- 文学/日本文学、小説・物語
- ISBN
- 9784488402228
- 発売日
- 2019/04/11
- 価格
- 1,100円(税込)
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「手妻篇」と合わせて、没後10年に出されたファンには堪らぬ文庫版
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
今回の文庫評では、『泡坂妻夫引退公演 絡繰篇』をメインとしているが、正確にいえば、対となる同時刊行の『同 手妻篇』(創元推理文庫)と二冊である。
というのは、この二冊の初刊本は、作者の没後三年の二〇一二年八月、東京創元社から、二分冊函入りの典雅な単行本として刊行されたもの。それを今度は著者没後十年を記念して、文庫化したものが、本書なのだ。このささやかな文庫本を手に取りつつ、泡坂さん、ずいぶん小さくなっちゃったなと思いながらも、これでまた、少しでも多くの読者に読んでもらえると、嬉しくならずにはいられない。
解説で新保博久氏が記しているように、私は、泡坂さんがデビューした探偵小説専門誌「幻影城」のファンクラブだった〈怪の会〉に、在籍していたことがあるので、その素顔に何度も接することができた。
いつも温厚な笑顔を浮かべていた泡坂さんが、唯一、興奮しているのを見たのは一回のみ―『蔭桔梗』で直木賞を受賞された際、〈怪の会〉が用意したお祝いの席にやってきた泡坂さんが、別のお祝いの宴を抜け出してきたのか、顔を真っ赤にして、「受賞(と)ったよ」と店の扉をあけて入って来たときだけだった。
泡坂さんは、作家である以前に、和服に家紋を描く紋章上絵師であり、また、奇術界の江戸川乱歩賞である石田天海賞を受賞したマジシャンでもあった。
『絡繰篇』は、作者の現代もののキャラクター、亜愛一郎の御先祖様、江戸の雲見番、亜智一郎が活躍する七篇からはじまって、紋章上絵師や紋を軸として、男女の愛情や人生の機縁そのものをミステリとして捉えた諸作等、贅沢なこしらえとなった。一方、『手妻篇』も、妖術師ヨギ ガンジーが活躍する三篇を巻頭に、初刊本に収録されず、今回、はじめて書籍化される「酔象秘曲」、そして、マジシャンものともいうべき四篇から戯曲まで、どれも宝石の如き逸品ばかり。
創元推理文庫には、作者の第一長篇『11枚のとらんぷ』をはじめとする、多くの名作が収録されている。
こちらもぜひ――。