『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』
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鑑賞技術の解説だけじゃない 読者のモードを変える仕掛け
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
美術展の長蛇の列に並んでようやく名画の前に立ったものの、何をどう見ればよいのかわからないまま居心地の悪さに耐えかねてそそくさとその場を後にする――これ、けっこうな“あるある話”じゃないだろうか? 「考えるな、感じろ!」とはいうものの、素人にとってはそもそも感じたことを形にする作業が難しいのだ。
そんな迷える子羊たちから熱い支持を受けているのが秋田麻早子『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』。今年5月の発売以降、およそ月一ペースで重版がかかり、現在5刷2万5000部。レビューでも高評価が並び、一過性のブームで終わらないベストセラー本のたたずまいを見せている。
著者の秋田氏は“センスや直感や専門知識に頼らない絵の見方”をモットーに、絵を見る際の着眼点や視線の動かし方を教える講座を開催している気鋭の美術史研究家。
「これまで美術鑑賞といえば、作品の背景にある物語の読み解きから教えるものが多かったので、すごく新鮮でスリリングな体験でした」(担当編集者)
テクニックに焦点を当てた内容に加えて特徴的な点が文字組みだ。本論にあたる部分はタテ書きで、それぞれの作品における詳細な情報の部分はヨコ書きになっている。
「おかげで内容の濃さに比して本の厚みを抑えられたという副次的効果もありましたが、いちばん大きかったのは“読みのモードが変わる”点。読者のみなさんがポイントごとに立ち止まって考えられるつくりにしたかったんです」(同)
ページをめくりながら思い起こしたのは、美術館の展示作品の横につけられたキャプションの存在。ある種のタネあかしのように、そこに含まれた情報と実際の絵画の姿を照らし合わせることで、自分の感覚を具体的な言葉に置き換えるレッスンを体験しているような気持ちになるわけだ。
「西洋絵画だけでなく、写真や映画、広告のデザインにも適用できる内容。読者の方々が生活のなかで気軽に“画”を楽しむ習慣を身につけるための一助になれば嬉しいです」(同)