『ニワトリをどう洗うか?』
- 著者
- ティム・カルキンス [著]/斉藤裕一 [訳]
- 出版社
- CCCメディアハウス
- ジャンル
- 社会科学/社会科学総記
- ISBN
- 9784484191072
- 発売日
- 2019/08/29
- 価格
- 1,760円(税込)
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笑いは取ろうとするべきか? 今すぐ実践できる最強のプレゼン理論
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『ニワトリをどう洗うか? 実践・最強のプレゼンテーション理論』(ティム・カルキンス 著、斉藤裕一 訳、CCCメディアハウス)とは変わったタイトルですが、これは8歳のとき、見本市に出すニワトリの洗い方をプレゼンテーションをしたという著者の体験に基づくもの。
ですからニワトリの洗い方が紹介されているわけではなく、内容的にはきわめて真面目なプレゼンテーション関連書籍です。
ちなみに著者は、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授、マーケティングコンサルタント。
この本は、シンプルな一つの事柄を目標にしている。それは、あなたが仕事の場で効果的なプレゼンテーションをできるようにすることだ。
本書を読んで内容を実践すれば、自信をもって説得力のあるプレゼンができるようになる。人前でスムーズに話を進め、その場の状況をコントロールできるようになる。(18ページより)
プレゼンのスキルが高まれば仕事の成果も向上し、自身の影響力やブランド力も高まることに。
つまりは本書を通じてプレゼンのスキルを高めれば、人生そのものをも向上させられるというのです。
「プレゼンに関する『よくある質問』」のなかから、3つのポイントを抜き出してみることにしましょう。
長いプレゼンよりも短いプレゼンがいい?
著者によれば、答えは「ノー」。
しかし、常にいえるのは、複雑なプレゼンよりもシンプルなプレゼンのほうがいいということ。複雑なプレゼンにすることで効果が高まることは、ほとんどないというのがその理由です。
とはいえ、短いプレゼンのほうがいいということにはならないのだとか。状況の分析を踏まえて提案を示すために、多くのページが必要となる場合もあるでしょう。
それに、たくさんの情報を1ページ、あるいは2、3ページのスライドに詰め込もうとすると、プレゼン全体の質を落としてしまうかもしれません。
いうまでもなく、情報の量が多くなりすぎてしまうからです。そのため、何ページかのスライドに分けたほうがいいわけです。
たとえば最初のページで問題に対するアプローチについて説明し、2ページ目で主要な前提を示す。3ページ目で分析方法と結果を示し、4ページ目でその意味合いを明確にするというように。
多くの場合、20ページのスライドを使うプレゼンよりも、80ページのプレゼンのほうがシンプルで理解しやすく、説得力も強くなるのだそうです。
著者自身の経験でも、出来のよかったプレゼンには、スライドのページ数の多いものが少なからず含まれているのだといいます。
たとえば、パーケイのマーガリンの価格見直しについて提案したプレゼンは70ページだった。かなり複雑な分析と一連の計算について、一つずつ順を追って説明した。それぞれのページはシンプルで、次のページへとつながっていった。
リスクを伴うので賛否が分かれてもおかしくない提案内容だったが、理路整然としたプレゼンができたために、当然の策であるように受け入れられた。(308ページより)
つまりは各ページの情報量をシンプルにし、連続性(リズム感)を持たせてプレゼンすることが大切なのでしょう。(307ページより)
話す内容は暗記するべきか?
この問いに対する答えも、「ノー」。プレゼンを暗記する必要はなく、むしろ暗記することは3つの理由から望ましくないのだと著者は主張しています。
まず第一は、暗記して話すと説得力が弱くなること。
いうまでもなくプレゼンの目的は、提案の内容を納得してもらい、支持を得ることです。そのために必要とされるのは、自然に、そして信念を持って話すこと。
説教や講義をするのではなく、自分の考えを説明するのですから、自然な話し方で論理的に説明していくことが重要であるわけです。
しかし暗記して話すと堅苦しい感じになり、しかも思い出そうとしながら話すことになるため、表情が険しくなってしまいがち。原稿を書いて暗記した場合には、とくにこの傾向が著しくなるそうです。
なぜなら書きことばは、話しことばと違うから。
深い自信と知識をうかがわせる落ち着いたプレゼンが必要であるにもかかわらず、それでは逆の結果になってしまうということです。
第二は、暗記して話すと、うろたえてしまうことが起こりやすくなるから。話の途中でことばに詰まると、落ち着きを取り戻すことが難しくなりかねないというのです。
それは、俳優が舞台でせりふを忘れてしまった場合に似ていると著者は記しています。
ただ呆然と立ち尽くし、プロンプター(後見)からせりふを教えられるまで、芝居の流れが止まってしまうわけです。
しかし暗記しようとしなければ、忘れてしまうことにはなりません。いいかえれば、忘れてしまうというリスクを完全になくせるということ。
しかも演劇と違い、せりふを教えてくれる人はいないので、これは重要な考え方だといえるでしょう。
第三は、暗記には時間がかかりすぎるということ。60分のプレゼンで話すことを覚えるのは、現実問題として簡単な仕事ではないのです。
まず話す内容を書き起こし、それを読みながら暗記し、何度も練習しなければならないのですから。
すばらしい記憶力の持ち主であるなら、すぐに覚えられるかもしれません。しかしほとんどの人は、そこで苦労することになるでしょう。
でも、それほどの精神的エネルギーを費やす必要が本当にあるのでしょうか?
それよりも、プレゼンの論理や分析の確認に時間をかけたほうがいいという著者の考えは、理にかなっているように思えます。(309ページより)
笑いを取ろうとするべきか
これも、答えは「ノー」。なぜならビジネスに関する事柄は、本質的に笑いを誘うものではないからです。
価格の変更や新製品の投入について考えるときに笑い出す人はいませんし、そもそも笑いにつながるような領域ではありません。
したがってユーモアは場違いになる恐れがあり、避けたほうがいいということ。
ビジネスのプレゼンにユーモアを交えることには、3つの問題点があると著者はいいます。まずは、間違ったシグナルを送ってしまうことになるということ。ジョークを口にしたりすると、問題を真面目に考えていないと受け止められることになりかねないわけです。
提案を支持してもらうことがプレゼンの目的なのですから、これではその前提となる信頼性につながりません。
第二は、ふざけているような印象を与え、聞く側の気分を害することになりかねないということ。国際事業の場合には、とくにこれが問題になりやすいといいます。
なぜなら、ユーモアは文化によって大きく異なりうるから。ある国でおもしろがられても、別の国では侮辱と受け取られることもあるので、そのようなリスクを冒すべきではないのです。
そして第三は、ジョークをいっても受けないかもしれないということ。
そのジョークに誰も笑わなかったとしたら、プレゼンに勢いをつけて離陸しようとしたあげく、完全に失速してしまったということになるわけです。
しかも、そもそもジョークをいう必要などなかったのですから、百害あって一利なし。大きな効果が見込めるのでない限り、リスクを負うのは避けるべきなのです。
ただし、一定の範囲内でウィットを効かせるのはかまわないそうです。とくに相手がユーモアを好み、笑いの感覚も合う場合には有効だということ。(311ページより)
必要性、目的、ストーリーのまとめ方、ページのつくり方、データの使い方、プレゼンの方法、質問への対応などなど、プレゼンテーション・スキルを上げるために知っておきたいことが詳しく、そしてわかりやすくまとめられています。
だからこそ本書を精読すれば、プレゼンテーションに関する不安を解消できそうです。
Photo: 印南敦史
Source: CCCメディアハウス