<東北の本棚>保全し歴史文化を継承

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

古文書がつなぐ人と地域

『古文書がつなぐ人と地域』

著者
荒武 賢一朗 [編集]/高橋 陽一 [編集]
出版社
東北大学出版会
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784861633331
発売日
2019/10/05
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>保全し歴史文化を継承

[レビュアー] 河北新報

 古文書などの資料を保全して継承し、地域の財産として役立てる活動の意義を掘り下げた。高齢化、過疎化が進む限界集落や被災地は、地域の歴史文化が断絶する危機にさらされる。災害が頻発する中、今後も重要性を増す取り組みについて考える一冊だ。
 この分野では被災した歴史資料を救う「文化財レスキュー」が注目されてきた。阪神・淡路大震災に際し、関西の歴史学会が組織的に対応を始めたのがきっかけで、宮城県でも東日本大震災で脚光を浴びた。今般の台風19号による水害でも、専門家らのNPO法人が活動する。
 東京電力福島第1原発事故の被災地は、コミュニティー崩壊の危機に直面する。福島県双葉町出身の研究者が地元での資料保全と、住民と専門家が協働で住所の「大字」単位の地域史を掘り起こす活動を報告する。心理学の観点からレスキューの意味を分析した研究もある。
 大崎市の岩出山古文書を読む会は40年超、活動を続ける。市内2カ所で古文書の読み方教室を開き、有志によるゼミがある。郷土史を伝える一般向けの講座も定期的に開く。「地域と歩む歴史学」の実践モデルと言える。
 資料の活用では、宮城県川崎町の青根温泉の湯守、佐藤家に伝わる古文書のケースが示唆に富む。史料集の出版、講演会、旅館での展示を次々と展開。これで機運が盛り上がり、郷土史サークルの誕生につながった。
 白石市で伊達家の重臣遠藤家の文書が発見された経緯を巡っては、民・学・官の連携の重要性を訴える。
 2017年に東北大東北アジア研究センターが開いたシンポジウムの発表を基に、研究者5人の原稿をまとめた。
 東北大出版会022(214)2777=2750円。

河北新報
2019年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク