ビートたけしが一流の語り芸で「芸人の作法」を説く1冊

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

芸人と影

『芸人と影』

著者
ビート たけし [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784098253593
発売日
2019/11/28
価格
880円(税込)

書籍情報:openBD

“ヤクザ者”だからこそ求められる“芸人の作法”

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 昨年の芸能界で最も大きな出来事だったのが、いわゆる「闇営業」問題だ。芸人と反社会的勢力との関係性が問われたが、いつの間にか吉本興業の旧態依然たる企業体質へと論点が移っていってしまった。

 ビートたけし『芸人と影』は、この問題も含め、芸能界と芸人の「深層」を語った一冊だ。そのスタンスは明快で、元々芸能界はカタギの社会で生きられない人間たちの集まりであると言い切り、「世間一般の道徳を芸人に押しつけるから話がおかしくなる」。

 また、この国の芸能界は歴史的にヤクザと共にあったわけで、「その責任を、ここ数年で出てきたような若手芸人におっかぶせること自体に無理がある」。確かに世間の過剰反応も度を越していたが、それを煽ることで利益を上げていたのがマスコミだった。

 一方、著者は芸人に対しても釘を刺す。お笑いに唯一求められているのは「客を笑わせること」であり、「そのためには何をするべきか、すべきではないか」を考えて行動する。それが「芸人の作法」につながると言うのだ。自分が芸人という名のヤクザ者であり半端者であるからこその作法。そんな意識が渦中の芸人たちにあったら、事態は変わっていたかもしれない。

 著者は「所詮はたかがお笑いの男の戯れ言だから」と韜晦するが、そんなことはない。業界における位置を考えると、本書での発言は貴重だ。主観と客観のバランスが絶妙で、何より一流の語り芸になっている。

新潮社 週刊新潮
2020年1月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加