【聞きたい。】中村隆之さん 『野蛮の言説』

インタビュー

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【聞きたい。】中村隆之さん 『野蛮の言説』

[文] 桑原聡(産経新聞社 文化部編集委員)

 ■他者排除のよりどころに迫る


中村隆之さん

 異質な他者を野蛮な存在とみなす《野蛮の言説》がまたぞろ21世紀前半の世界を覆い始めた。それは、他者を排除しようとする行動を誘発する。

 カリブ海の植民地問題に取り組んできた中村隆之さんは、長い歴史のなかで「野蛮の言説」がいかにして生まれ、堆積していったのかを、1492年のコロンブスの新大陸到着を起点に、ダーウィンの進化論、欧米の植民地経営、ナチのホロコーストと優生学、さらには現代日本の差別意識を俎上(そじょう)に載せて検証する。

 つまり、西欧が「文明対野蛮」の構図のもと、「奴隷は支配されるように生まれついた不完全な人間である」とのアリストテレスの説や、リンネの人種論、ダーウィンの進化論を援用して、異質な他者を蔑視、奴隷化、虐殺するのを正当化してきた歴史を叙述しながら《野蛮の言説》が当時の常識のなかに潜在していたことを浮き彫りにするのである。

 「現代の常識で、スペインのインカ征服やナチのホロコースト、相模原の障害者殺傷事件を断罪することはたやすい。問題は断罪のよりどころとなっている常識のなかに《野蛮の言説》が宿っていることに気づかないこと。本書の眼目はここにあります」と中村さん。

 「いま経済の停滞と連動して、世界各国で自国民優先の思潮が強まっています。自国の内外に《敵》を想定して、《敵》に対する差別的言動で同朋意識を強化しようとしています」と憂慮する中村さんに「生存を脅かされていると感じる人間が、原因を作ったと想定される他者を排除しようとするのは仕方のないことではないか」と問うと、こんな答えが。

 「《野蛮の言説》が常識に宿っていると考えるなら、その常識を相対化し、よりよい方向に変容させればよい。《野蛮の言説》を無効化することはけっして不可能ではありません」

 中村さんはけっして希望を捨てない。(春陽堂書店・2600円+税)

 桑原聡

   ◇

【プロフィル】中村隆之
 なかむら・たかゆき 昭和50年、東京都出身。東京外国語大大学院博士後期課程修了。早稲田大法学部准教授。専門はカリブ海フランス語文学。著書に『カリブ-世界論』『エドゥアール・グリッサン』など。

産経新聞
2020年3月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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