<東北の本棚>訪ね歩き聞き取り調査

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みやぎのアイヌ語地名

『みやぎのアイヌ語地名』

著者
太宰幸子 [著]
出版社
河北新報社
ISBN
9784873413990
発売日
2020/02/27
価格
1,100円(税込)

<東北の本棚>訪ね歩き聞き取り調査

[レビュアー] 河北新報

 宮城県地名研究会長で、東北アイヌ語地名研究会長でもある著者の集大成とも言える一冊。県内各地を巡って土地の変遷を知る高齢者らに聞き取りし、地形を自身で確認した上で、「県内にアイヌ語を言語とする人が確かに住み、話していた痕跡が認められる。それを知らせているのがアイヌ語で解ける地名」と結論付ける。
 仙台地裁がある仙台市青葉区の「片平」などを例に挙げる。広瀬川の河岸段丘上の土地だ。アイヌ語で崖地を「ピラ」と呼ぶため、「カタ・ピラ(崖の様子)」か「カマ・ピラ(越える・崖)」が変化し、片平という漢字が充てられたとみる。
 アイヌ語地名が今も残る理由として、アイヌ語を話す先住民の生活様式が背景にあると説く。川岸を移動しながら狩猟採集生活をしていた彼らの土地に「和語」を話し稲作を手掛ける住民が移り住んできたが、暮らし方が違うので共存ができたと推測。「互いのエリアや食物を奪い合うものではなかった」ことから、先住民が使っていた地名が変えられなかったと推し量る。
 川に依拠する生活様式だけに、水辺にまつわる地名も多い。治水工事が施された現代と異なり、暴れ川が各地にあったため、「自然災害を伝える地名が意外に多いのも特徴」と記す。仙台市若林区の日辺(にっぺ)もその一つ。笊(ざる)川が名取川と合流し、さらに広瀬川と交わる地点はアイヌ語で「ニ・ペツ(木や流木・川)」と解くことができ、洪水で運ばれてきた流木が集まりやすい土地であることを地名にしたと考える。
 ほかにも県内各地に数多くあるアイヌ語地名の成り立ちを解説する。栗原市栗駒文字の「海草」地区は「カイ・ソウ(折れる・滝)」と解釈。実際に川の流れが屈曲した場所に滝があることを確認したといい、海と全く関係がなかったことを示す。
 河北新報出版センター022(214)3811=1100円。

河北新報
2020年4月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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