『プロ野球の誕生』
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プロ野球の誕生 迫りくる戦時体制と職業野球 中西満貴典(みきのり)著
[レビュアー] 満薗文博(スポーツジャーナリスト)
◆球団創生期の「ヤマ場」 丹念に
大河ドラマの「ヤマ場」を読んだ。妙な言い回しだが、読後の率直な感想である。
読み手はまず、これは「学術論文」か、の思いを強くするかもしれない。「東京巨人軍につづく職業野球団結成の胎動」「職業野球団続々と誕生」「待ち遠しい球春」の三つの章からなるが、それぞれの章の末に、丹念に小さな活字で【注】が現れ、その数は二百四十二項にも上っている。
著者は、以前に『追憶の日米野球』『追憶の日米野球II』を著しているが、その続編とも言えるのが本書で「日本プロ野球誕生前夜」にスポットを当てている。本書では、一九三六(昭和十一)年四月に始まったプロ野球リーグ戦に参じた七球団(特に開幕年に旗揚げした五球団)誕生の裏側を詳細に語る。
時代は、二・二六事件が起き、後に第二次世界大戦につながる戦時体制が迫りくる最中である。実は、本書はそうした背景をふんだんに取り入れながら、プロ野球創生を語る手法が異彩を放っている。
私は、プロ野球誕生から隆盛を迎えるまでを大河とするなら、開幕直前に起きた各球団誕生の様を「ヤマ場」と見る。「学術論文」と書いたが、版元は「渾身(こんしん)の野球史書」と紹介している。著者は名古屋大学工学部、同大学院で博士課程を修了したというが、いずれにしても、調査の徹底ぶりには目を見張らされる。
プロ野球草創期の七球団は、東京巨人軍、大阪タイガース、名古屋軍、東京セネタース、阪急軍、大東京軍、名古屋金鯱軍である。うち、巨人軍(読売新聞)、名古屋軍(新愛知新聞)、大東京軍(国民新聞)、名古屋金鯱軍(名古屋新聞)と、四球団が新聞社主導で、残りの三球団が鉄道会社主導であったのはなぜか、の謎解きは、まさに迫真の「ヤマ場」である。著者は、当時の読売、新愛知、名古屋、国民の各紙を掘り起こし、多く展開させる。ちなみに、名古屋軍は現在の中日ドラゴンズの源流である。新愛知と名古屋は現在の中日新聞、国民は現在の東京新聞(中日新聞東京本社)の源流である。
(彩流社・3300円)
1953年生まれ。思想史・野球史研究家。著書『追憶の日米野球』など。
◆もう1冊
岡野進著『日本野球の源流』(右文書院)