【聞きたい。】梶よう子さん 『三年長屋』 人とのつながり密な暮らし
[文] 油原聡子
梶よう子さん
3年住めば願いがかなうといわれる、かっぱを祭った長屋が舞台。今でいう管理人に当たる、おせっかいな差配と店子(たなこ)が織りなす物語だ。
浮世絵や薬草栽培などをテーマに数々の時代小説を執筆してきたが、「正面切って長屋を舞台にした小説を書いたことはありません。始まりと終わりがあってオチもある、落語のような雰囲気を意識しました」。
差配の左平次は、元武士だが訳あって町人として暮らしている。捨て子や家財道具の盗難などさまざまな問題を「差し出がましいようですが…」と、店子を巻き込み、解決に奔走する。
「今は自分の時間、『個』を大切にする時代。マンション住まいだとお隣に誰がいるかも分からない。江戸時代はモノがないので他人に助けを求めることもあっただろうし、冠婚葬祭はみんなが動く。大家族みたいな、そういう暮らしも悪くないんじゃないかな」
店子は長屋に祭られたかっぱを心のよりどころに、夢をかなえるために毎日を過ごす。左平次は次第に、店子自身があきらめず強い思いを持ち続けるからこそ願いが成就すると気づく。
「簡単に何かを済ませようとしてしまうことが多い。でも、何かを得たいのであれば、地味かもしれないけれど努力していくことが大切ですよね」
現代との共通点を探す楽しさも時代物ならではだ。
「三年長屋は十世帯で小ぶりなアパートみたいですが、当時はもっと大きな長屋が高度経済成長期の団地のように並んでいた。江戸時代の損料屋はレンタル屋さん。鍋釜から布団まで貸してくれました。現代とリンクする部分もあるし、今より人と人のつながりが密なのも面白かったですね」
意外とエコで、人の縁を大事にした長屋暮らし。「ここに住んだら楽しそう」と思える、さわやかな読後感の小説だ。(KADOKAWA・1800円+税)
油原聡子
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【プロフィル】梶よう子
かじ・ようこ 東京都生まれ。平成17年に『い草の花』で九州さが大衆文学賞大賞受賞。20年に『一朝の夢』で松本清張賞を受賞。28年に『ヨイ豊』が直木賞候補になった。