『十津川警部 仙山線〈秘境駅〉の少女』
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<東北の本棚>八ツ森起点 軽快な展開
[レビュアー] 河北新報
1973年から半世紀近く続く、警視庁刑事部捜査一課の十津川(とつがわ)省三警部を主人公とする「十津川警部シリーズ」。数多くのテレビドラマの原作にもなってきた人気の推理小説シリーズで、仙台、山形両市を結ぶJR仙山線の旧八ツ森駅が舞台だ。
山奥など周りに人家がほとんどない場所にあるのが「秘境駅」。鉄道ファンの間で注目されており、作並駅-奥新川駅(仙台市青葉区)の間に2014年3月に廃止されるまで実際にあった八ツ森駅は典型的な秘境駅という。
網走刑務所の無期懲役囚から、15年前に八ツ森駅で知り合った「愛(めぐみ)」という名の女性に、自分の写真を渡してほしいと頼まれる十津川警部。写真には伝言が隠され、それを端緒に16年前に発生した未解決の韓国大使殺害事件の解明につながっていく。
八ツ森駅を起点に、網走、東京、軽井沢、京都…と主人公はめまぐるしく各地を走り回り真相に迫っていく。西村ファンおなじみのトラベルミステリーの妙味だ。戦争や歴史など日本と韓国を巡るシリアスな要素が織り込まれた事件が話の骨格だが、堅苦しくなく軽快な展開で進む。
タイミングのいい偶然の出会いや十津川警部の推理が、展開を早める重要な鍵になっている。タイトル名にある「少女」の存在が気になる。
小学館03(3230)5355=990円。