琉球人に朝鮮人 歴史の隅に追いやられた人々の視点から見えるもの

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  • 天地に燦たり
  • テンペスト 第一巻 春雷
  • 芥川竜之介全集 5

書籍情報:openBD

琉球人に朝鮮人 歴史の隅に追いやられた人々の視点から見えるもの

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 樺太に生まれたアイヌの青年と、リトアニア出身でこの地に流刑となった青年。自分の文化を奪われる危機に直面する二人の姿を主軸にした『熱源』で直木賞を受賞した川越宗一。これがまだ彼の第二作だ。第一作は松本清張賞を受賞した『天地に燦たり』で、このたび文庫化されたばかり。こちらもまた、激動の時代に歴史の隅に追いやられる人々を追った大作だ。

 豊臣秀吉の朝鮮出兵に揺れる16世紀の東アジアを舞台に、3人の視点から描かれる本作。朝鮮国で被差別民として生まれながらも儒教を学び、戦火の混乱のなか戸籍を焼いて官吏試験に挑んだ青年、明鍾。明の服属国だった琉球の官人であり、密偵として暗躍する真市。そして島津家の重臣で、戦に身を投じる生き方しか知らない大野七郎久高。3人の人生が交錯していく様を追いつつ、それぞれの立場から自らの生について、国についての思いを浮かび上がらせる。『熱源』もそうだが、誰もが完全な悪人や完全な善人というわけではなく、迷いつつ生きる意味を模索する姿が生々しい。

 琉球国から連想する小説といえば池上永一『テンペスト』(角川文庫 全4巻)。こちらは19世紀の琉球王朝末期が舞台の大河小説だ。聡明な少女真鶴は、13歳で名前を改め男と偽って臨んだ科試に合格、宦官として難題に立ち向かっていく。薩摩と清国の支配に翻弄されるなか、近代化の波にも揉まれていく。登場人物がみな個性的で時にコミカル、エンターテインメント性の高い作品だが、『天地に燦たり』と合わせて読めば、この土地の歴史の流れも見えてくるのでは。

 もう一作は、短篇だが芥川龍之介「金将軍」(ちくま文庫『芥川龍之介全集 5』所収)を。朝鮮出兵で半島に来襲した小西行長を、金応瑞将軍が計略をめぐらして殺害する奇譚で、実際には小西はのちに帰国している。印象に残るのは最後の部分で、芥川はこれを朝鮮に伝わる話として紹介しつつ、歴史を粉飾するのは日本も同じだと、教科書批判も含めてチクリ。大正13年発表の作品である。

新潮社 週刊新潮
2020年7月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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